古い土地

暗い穴

ξ:文学

中世までのホメロス受容史:二次創作と偽書

以前いろいろな事情が重なって*1、ホメロス『イリアス』『オデュッセイア』について調べていたことがあった。その際にヘレニズム期から中世にかけてのホメロス受容の状況がかなり面白いことを発見した。簡単にまとめると、ホメロス原典が二次創作と偽書に負…

日記(2024/10/xx)

「うい麦畑でつかまえて」、『わが出雲・わが鎮魂』説 うい 夢に見るよ 新婚旅行 そっかそれなら 空き缶はお前らだね しっかりくくるね (「うい麦畑でつかまえて」作詞:ナナホシ管弦楽団、作曲:岩見隆)https://www.youtube.com/watch?v=5uaHMmcReI0 ガラ…

カート・ヴォネガット『スローターハウス5』について

カート・ヴォネガット『スローターハウス5』(Slaughterhouse-Five, or The Children's Crusade: A Duty-Dance With Death、1969年)を読みました。 www.hayakawa-online.co.jp きっかけは1945年の第二次大戦敗戦から「恥辱」軸でWeb小説を説こうとする小論*…

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』について

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(To the Lighthouse、1927年)を読みました。 www.iwanami.co.jp 以前ウルフの『波』(1931年)を読もうとしたときは100ページ程で挫折してしまった。「こいつら全員言葉に対する感性鋭いんか???流石におかしくないか??…

落ち込んだときに読みたい入沢康夫の言葉・補編

wagaizumo.hatenablog.com 将来の利用を見越して、上の記事で使わなかった引用&コメントをここに列挙する。 偶然にも没案は25個あった。この程度の記事でもクオリティ・コントロールのため全体の半分を切り捨てているらしい。 選定の基準として面白さ・啓発…

落ち込んだときに読みたい入沢康夫の言葉25選

こんにちは、モダニズム友の会です。 暗い出来事や、難しい問題にぶち当たったとき、気持ちが沈んでしまうことや、先が見えなく感じてしまうことがありますよね。 そんな時は、ぜひ入沢康夫の詩集を開いてみませんか? 今日は、落ち込んだ時に読んでほしい「…

記事に関するいくつかのアイディア

すでに書いたものから没予定のものまで以下に列挙する。「整形した創作メモ」といった具合。私が普段どんな愚にもつかないことを考えているか明らかにしよう。 「これ面白いね」というものがあれば反応いただけると書く確率が上がるかもしれない。 落ち込ん…

児童文学『ぼくのいずも きみのおやすみ』作・入沢 康夫せんせい(『わが出雲・わが鎮魂』より)

子どもに読ませたい現代詩不朽の名作! 原作:入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』思潮社、1968年 対象年齢:7∼8歳(小学校低学年) 制作支援:ChatGPT-4o ※:Web掲載にあたり表現を一部改めています。あらかじめご了承ください。書き下ろしの「かいせつ」はWeb…

ジェイムズ・ジョイス入門(2):『ユリシーズ』

wagaizumo.hatenablog.com 前回のあらすじ: アイルランド最大の都市ダブリンに生まれ育ち、ヨーロッパ大陸に移住してからもダブリンの街を描き続けた作家ジェイムズ・ジョイス(1882-1941年)。彼の作品として短編集『ダブリナーズ』(1914年)および長編『…

ジェイムズ・ジョイス入門(1):『ダブリナーズ』『若い芸術家の肖像』

今から遡ること120年前の1904年6月16日夕方頃、アイルランド最大の都市ダブリンにて、22歳の文学青年がある女性と初めてのデートに臨んだ。その女性は後に青年の妻となるだろう。青年はこのデートをきっかけに、母親の死以来感じていた孤独感を捨てるだろう…

大江健三郎『万延元年のフットボール』の気絶・失神シーンまとめ

最近は失神について調べている。 失神の詩学に向けて 前編 - 古い土地 失神の詩学に向けて 後編 - 古い土地 後編の方では大江健三郎『セヴンティーン』(1961年)を取り上げた。 この記事を書いたあと、『セヴンティーン』の読解に不安を感じたのもあり、そ…

失神の詩学に向けて 後編

前回のあらすじ: 10年間友達だと思ってた男の子に告白され、失神 https://x.com/shisshinbot/status/1610135758022799360 wagaizumo.hatenablog.com 今回は小説の読解が多くなる。 5.フランソワ・ラブレー 6.大江健三郎 7.ジョナサン・スウィフト 8…

失神の詩学に向けて 前編

ふわりと舞い落ちた桜の花びらが股間にヒットし、失神 https://x.com/shisshinbot/status/1776966426982834260 1.エミリー・ディキンソン 2.フランツ・リスト 3.ザ・ビートルズ 4.ウィリアム・フォークナー

詩をよむそれはくるしい 5:塚本邦雄

塚本邦雄(1920-2008年)は、第二次大戦後の前衛短歌運動の旗手としてよく知られる。 きっかけは、戦後まもなく歌壇・俳壇に対して突きつけられた「第二芸術論」(1946年)だった。これは短歌型文学の前近代性──日本的抒情、表現の狭小、「何を」より「誰が…

中原中也という現象【詩を読まないのでとても楽しい】

大岡昇平(編)『中原中也詩集』岩波文庫、1981年 これを読んだ。良さが分からなかった。 北川透『中原中也論集成』思潮社、2007年 困ったのでこれを流し読んだ。おおむね説得的な議論だった。だが1935年生まれの北川透が、なぜ1968-2007年の間に700ページ分…

日本の狼は月に吠えたか:萩原朔太郎『月に吠える』と狼の文化史

萩原朔太郎の第1詩集『月に吠える』(1917年)は、大正口語自由詩を代表する作品としてよく知られる。 この詩集に頻出するモチーフの1つが、タイトルにもなっている「月に吠える犬」「病める犬」だ。 月に吠える犬は、自分の影に怪しみ恐れて吠えるのである…

日記:「パターン化された”エモ”」一周年を記念して/安藤元雄の詩

もうパターン化された“エモ”気持ち悪すぎるんだよ、純喫茶でクリームソーダ、フィルムカメラで街を撮る、薄暗い夜明け、自堕落な生活、アルコール、古着屋、名画座、ミニシアター、硬いプリン、もう全部飽きた 面白くない https://x.com/_capsella_/status/1…

劇としての(二次創作)

歌は、詩よりもずっと劇に近い。 (サイモン・フリス『サウンドの力』1981年) 全ての詩は劇をめざし、全ての劇は詩をめざす。 (T. S. エリオット『批評選集』1932年) 「劇」に関する2つの言及をきっかけとした、5つの断片・エッセイ。 劇としてのSCP 劇…

日本近代詩史の裏ルート:亀井俊介『日本近代詩の成立』

抜群に面白い日本詩史の本があったので、読書メモ代わりに紹介しようと思う。 www.amazon.co.jp 亀井俊介『日本近代詩の成立』南雲堂、2016年 亀井俊介(1932-2023年)は『アメリカン・ヒーローの系譜』や『対訳 ディキンソン詩集』などで知られる、比較文学…

T. S. エリオット『荒地』登場人物最強議論スレ(強さランキング)

以下、独断と偏見に基づきエリオット『荒地』(1922年)の登場人物で誰が一番強いかを決める。ただし一般人相当のDランクとそれ未満のEランクは列挙していたらキリがないので、ある程度枝刈りした。 和訳は基本的に岩崎宗次訳『荒地』(岩波文庫、2010年)に…

補篇:貞操逆転・短歌・その他の観察

A. 一行はミニシアターに入ると、受付の鬼が「バグダッド・カフェあるよ(笑)」と言いました。 エモあるよ(笑)は「もう見飽きたんだよな(笑)」と言いました。 一行はシアターへ入り、バグダッド・カフェを鑑賞しました。 エモあるよ(笑)|惑星ソラリ…

貞操逆転・短歌・その他の観察

1. 貞操逆転 すばらしい あ 鳥だ机を撫でるゆにゔぁーさるの鳥を捨て塔の方へ (31文字に)

HACHIMAN「おれが今日 ここに来たのは……」[このSSの続きを読む]

1:以下、名無しが深夜にお送りします HACHIMAN「 おれが今日 ここに来たのは 偶然が重なった結果というべきで なにも証しがあったからではない ただ毎夕 鳥たちの喃語に耳を傾け 河底をあるく幾千の死馬の群れを率いたおれらであってみれば やはり単なる偶…

読書メモ:増田聡『聴衆をつくる』

増田聡『聴衆をつくる』(青土社、2006年) www.amazon.co.jp 音楽批評、というよりも「音楽批評」批評の本。 「ポピュラーミュージックを学問の対象として初めて扱ったテオドール・アドルノは、聴くことの研究を標榜して聴く人を研究していないか?」(第一…

旧約聖書の編集史と間テクスト性について(K.シュミート『旧約聖書文学史入門』)

はじめに 『旧約聖書』(The Old Testament)あるいは『ヘブライ語聖書』と今日呼ばれるテクスト群*1。その「非神学」的な批評研究は、スピノザ(1632-1677)などの先駆的な仕事を経て、18世紀啓蒙の時代に始まったという*2。 いわゆる「モーセ五書」(創世…

日記 最近書いた/読んだ/聴いたもの

最近書いたもの ここ一週間はずっと「小説家になろう」「カクヨム」向けに四万文字の論考を書いていた。 kakuyomu.jp 無から生成したわけではなく、次のブログ記事を下敷きにしている。 「転生オリ主」の出現――「憑依」と「オリ主」の落ち合うところで/「ト…

読書メモ:後藤護『黒人音楽史 奇想の宇宙』

暗黒批評……僕のやってることですよ(笑)。ただのキャッチフレーズなんですよね。もともとゴシック・ロマンスやフィルム・ノワールが凄い好きでした。それを日本語にすると、暗黒小説や暗黒映画になるらしいと。ああ暗黒舞踏もあるなとか気づき始める。暗黒…

TSの欲望:エリオット『荒地』と『お兄ちゃんはおしまい!』

「性」は神話の時代から、ずーっと、ずぅーっと、私たちの想像力を駆り立ててきた。

詩をよむそれはくるしい 4:天沢退二郎

詩を読みあぐね原稿を三か月放置していたら、期せずして追悼文となってしまった。彼の人と鳥の記憶に捧ぐ。 ……ややや 何たる恥知らず! 「鳥」の字がこんどは「馬」になり変っていく…… ――天沢退二郎「鳥について」(『ノマディズム』)

詩をよむそれはくるしい 3:吉岡実

水中の泡のなかで 桃がゆっくり回転する そのうしろを走るマラソン選手 わ ヴィクトリー ――吉岡実「桃 或はヴィクトリー」