古い土地

暗い穴

補篇:貞操逆転・短歌・その他の観察

 

A.

 

一行はミニシアターに入ると、受付の鬼が「バグダッド・カフェあるよ(笑)」と言いました。

エモあるよ(笑)は「もう見飽きたんだよな(笑)」と言いました。

一行はシアターへ入り、バグダッド・カフェを鑑賞しました。

 

エモあるよ(笑)|惑星ソラリスのラストの、びしょびしょの実家でびしょびしょの父親と抱き合うびしょびしょの主人公 *1

 

 

wagaizumo.hatenablog.com

 

 

 

 

B.

 

 『貞操逆転・短歌・その他の観察』(以下、『貞短そ』)には数えるのも馬鹿らしくなるぐらい多種多様なモチーフ/ミームが登場する。しかしとりあえず、発端となった要素がタイトル通り3つあることを確認しておこう。それはポルノにおける「貞操逆転」であり、(現代)日本における短歌であり、そしてT. S. エリオット「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」(『プルーフロックその他の観察』1917年)だ。

 ところで、最も重要なモチーフが「エロあるよ(笑)」であることは明らかだろう。『貞短そ』は私なりにエロ(笑)を多様な側面から分析・利用したテクストであり、現状ただ一つのエロ(笑)言語論として読むこともできる。

 

そうして私たち獣たちはただ一つの岩の前に横臥した

 

「エロあるよ(笑)」は言葉の終わりに関する想像力だ

 

 

C.

 

 7千字弱のエピグラフが続き、読者が集中力を欠いたところで2千字の詩「Archimedean twist」が挿入されるという『貞短そ』の構造は、控えめに言っても不親切だ。さらにそれが「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」というよく分からない現代詩を下敷きにしているとなれば。ゆえにここで包括的な解説をしておこう。

 『プルーフロックその他の観察Prufrock and Other Observations』は英米モダニズム詩人T. S. エリオットが1917年に発表した第一詩集である。普通なら「その他の詩」となる題が「観察」になっているあたりに、エリオットの気概を見ることができるだろう。自分の詩は現実世界の「観察」記録であって、ロマン派詩人に見られる強い感情の発露とは一線を画すのだ、と。エリオットは批評家としても(今思えば異常なほど)名高く、詩法と思想を高いレベルで融合することができた稀有な詩人であった。

 

 「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」は1915年に発表された。有名な冒頭部分を見てみよう。

 

Let us go then, you and I,

When the evening is spread out against the sky

Like a patient etherized upon a table;

じゃあ、行こうか、きみとぼくと、

薄暮れが空に広がって

手術台の上の麻酔患者のように見えるとき。

(以下、日本語訳は岩崎宗治訳『荒地』岩波文庫2010年に従う)

 

 「空が」「手術台の上の麻酔患者のように」──所謂「イマジスト」的な比喩であり(ここでは「イマジズム」の説明はしない)、数年後フランスに出現するシュルレアリスムに先立つものだ。このような表現、現代の都市生活者に相応しい乾いた陰翳が可能だということ自体が、驚きをもって受け止められた。

 なお、都市生活を詩の題材とする発想自体はフランス近代詩/象徴主義創始者ボードレールに帰すべきである。しかし個人的には、ボードレールが強く「19世紀中頃のパリ」に根付いている(それゆえ翻訳が必要)のに対し、エリオットの都市はそのまま100年後の現在に移植可能だと感じる。

 

 

D.

 

 「J・アルフレッド・プルーフロック」は冴えない40代男の遅疑逡巡をめぐる詩だ。彼は、「階段」の上の部屋にいる、「ミケランジェロの話をする(スノッブな)女たち」のところに行こうか行くまいか、延々と悩んでいる。「じっさい、まだ時間はあるさ」と判断を先延ばしにし続け、「自分の人生なんか、コーヒー・スプーンで量ってあるんだ」「おっと、ぼくはハムレット王子なんかじゃない[……]ときには、ほとんど〈道化〉」*2と自己卑下を語る(騙る)プルーフロック。女たちに「あら、毛が薄くなってる!」「そうじゃないのよ、ほんとに。そんなつもりじゃなかったのよ」と言われることを恐れるプルーフロック*3

 詩は次のように終わる。

 

I have heard the mermaids singing, each to each.

ぼくは聞いたことがあるんだ、人魚たちの歌い交わすあの声。

 

I do not think that they will sing to me.

人魚たちがぼくに向かって歌うなんて考えられない。

 

I have seen them riding seaward on the waves

Combing the white hair of the waves blown back

When the wind blows the water white and black.

We have lingered in the chambers of the sea

By sea-girls wreathed with seaweed red and brown

Till human voices wake us, and we drown.

彼女らが波に乗って、沖に向かっていくのは見たことがある、

長く白く流れる波頭に櫛を入れながら、

風が吹きわたり、海が白く、また黒く光るとき。

ぼくたちは海の部屋でどうやら長居をしてしまったようだ。

赤や褐色の海藻で身を飾った人魚たちのそばで──

つまるところ、ぼくたちは、人声に目覚め、溺れることになるのだ。

 

 エリオットは本当に綺麗に海を描く、という話はまた別の機会にするとして。以上が「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」の物語的な要約になるだろう。これは到底「恋歌」などではなく、現代人(20世紀初頭のエリート知識人)の深い懊悩が主題である。しかしいずれにせよ、あまりに悲惨な話ではないか。

 

 

E.

 

 T. S. エリオット『荒地』(1922年)から100年経つ間に、私たちが発明することができたのはせいぜい「萌え」「TS百合」くらいではないか、という話を以前したことがある。

TSの欲望:エリオット『荒地』と『お兄ちゃんはおしまい!』 - 古い土地

 これはまた、「オタク的な二次創作」と言い換えることもできるだろう(なお「現代的な二次創作」そのものは『荒地』で既に縦横無尽に行われている)。

 

 さて、「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」にオタク的な(あるいはインターネット的な)想像力を働かせれば、当然出てくるのが「原作死亡キャラ生存ルート」「プルーフロック救済」だ。「Archimedean twist」はこの方向性に従った「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」の二次創作だ、と言うことが(も)できる。

 もう少し具体的に説明すると、まずプルーフロックが無双するために舞台を2千年前(エリオットが引用する古典時代、ヨーロッパの伝統の開始地点)に差し戻した。古典時代に転生して現代知識チートでチヤホヤされる、というわけである。この際参考にしたのが、2010年代中盤の小説家になろうにおいて流行り始めた、中年を主人公とする「中年無双モノ」の諸作である*4

 もう一つ、J・アルフレッド・プルーフロックが女=人魚たちからモテモテになるためには「貞操逆転」が必要だった。それは端的に次のように表現されている。

 

私たちは古層と新層をひっくり返すに至った

 

 新層と古層の逆転、地層、低層、貞操逆転。こんなものはたちのわるい冗談にすぎない(関連して言っておけば、「連星の刻は来たれり」のくだりは第一義的にはギャグである)。ともかく

 

歌うような嬌声に囲まれたまま、J・アルフレッド・プルーフロックは蟹のはさみを抱いて睡りこけているのだ。

 

 無事、ハーレムを形成することができた。ただ、この「歌う」主体は「人魚」というより「深き者ども(ディープワン)」の感がなくはない(「Archimedean Twist」におけるJ・アルフレッド・プルーフロックは「大宇宙を丸めて一つに固め」るような強キャラなので、深き者どもを喘がせるくらいなんてことはないが)。

 ところで、「歌う」という行為、あるいは謎めいたキャラクタ「歌唄い」には、詩歌のモチーフが織り込まれている。人によっては、若き現代詩人HACHIMANのことを思い出すかもしれない。

 

おれは今日 詩をうたいに来た

HACHIMAN「おれが今日 ここに来たのは……」[このSSの続きを読む] - 古い土地

 

 

F.

 

 挿入散文詩「Archimedean Twist」を具体例として、「エロ(笑)」を中心とする「貞操逆転」「短歌」「その他の観察」のトリレンマは十分了解されたものと思う。

 念のため、というか、ここまで来たら、という思いで、『貞短そ』に出現するモチーフを列挙しながら解きほぐしてみよう。

 

「鳥」(初出1.) 鳥に対して異常な執着を示す人はどの時代もいる(宮崎駿君たちはどう生きるか』も鳥の映画だった)。特に詩人に多いような気がする。

詩をよむそれはくるしい 4:天沢退二郎 - 古い土地

 悪意ある鳥、というテーマは少なくともエドガー・アラン・ポー「大鴉Raven」(1845年)まで遡れる。『貞短そ』では逆に、鳥アンチのごとく鳥への悪意を表明した。これも天沢退二郎入沢康夫に多数の作例がある。

 

「DLsite」(初出2.) 現代のアレクサンドリア図書館、というよりは現代のバベルの図書館(ボルヘス)であろうか。『貞短そ』末尾に記したように、DLsiteにすでに詩はある(ポルノからの派生で書いている人もいれば、詩をインターネットで販売できる媒体がないから間違った消去法でDLsiteを使う人もいる)。「DLsiteの時代の詩歌poetry of DLsite Era」を考えることは、『荒地』から100年後(正岡子規の死後120年後)の我々にとって自然な成り行きであった。

 

「#tanka」(初出3.) 旧twitterにおいて#tankaで投稿されている短歌群は、全体として二次創作的な参照系を成している(おそらく穂村弘すら読んでいない)*5、というとある人の「観察」が、『貞短そ』を書くにあたって大きな勇気をくれた。ここで感謝の言葉を述べておきたい。

 

「ブルーアーカイブ」(初出3.) 掘れば水が出てくるらしい。

 

ノクターンノベルズ」(初出4.) web小説と二次創作とポルノのテーマがこれにより導入される。

 

「水」(初出4.) 古代とは水とエロが一致していた時代、というよりも2つ分けて考えることが不可能だった時代だった。近代において初めて「エロあるよ(笑) だが水はない」(ドナルドMADとT. S. エリオットの不幸な結合!)という言説が可能になり、以降我々は予め存在しない水を探し始めたのである。9.の「Archimedean twist」および10.においては、主に「海」として「水」は召喚される。

 

「『響きと怒り』」(初出5.) アメリカ南部のモチーフ。2.で引用した大和田『アメリ音楽史』書評の改変前も参照。同性愛的側面を隠蔽し人種カテゴリを創設するミンストレルショウの「猥雑さ」は、『貞短そ』に少なからぬ影を落としている。

 

「ChatGPT/AI」(初出5.) 時事的かつ猥褻に利用されるメディアとして。10.で宣言される「エロあるよ(笑)」との関係は微妙であり、「後言語」的状況においては媒体としても主体としてもAIは存在できないのではないかと疑う(逆に存在できるものはなんだろうか?)。

 

「音」(初出7.) 「youtubeの時代のジャズ」という形で2.で既に予見されていた。音に関してはテーマが縮重しており、そもそも私が関心を持っていたのは「ジャズ」と「近現代詩の音楽性」だった。

 ここでは2000年代以降のカルチュラル・スタディーズにおける音研究から、「聴覚がフランス近代詩に影響を与える」「俳諧が聴覚に影響を与える」「メディア・テクノロジーの発達と同時に触覚的エロスが錯覚され発明される」といったことを例示した。特に最後に関しては、「エロあるよ(笑)」がそもそもドナルド・マクドナルドのCMの逆再生の空耳であることを想起せよ。

 

「双対性」(初出7.) 数理科学的な要素。「双子」のテーマ。アルキメデス(9.)に関しては次を参照。

数学の歴史 - 古い土地

 

「HACHIMAN」(初出7.) 前作主人公。

 

「労働」(初出8.) 「星野源のうんこをこそぎ落とす」労働。万葉集に含まれる労働歌、プロレタリア短歌、フィールドハラー/プランテーション・ソング、プロレタリア小説としてのなろう小説(特に中年主人公モノ)などにも注意。

「その通りだ!」堪りかねて振り上げた男の手には指が三本しかない

──新島喜重(「短歌前衛」1929年9月)*6

 

不能」(初出8.) 近代人/近代文学あるある。原作「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」も「去勢」された中年男の話と言える。こういった寝取られ・鬱勃起の系譜に関しては、「こんな人生もあるのかなあ。こんな人生もあるんだから、お前も頑張れよ」(ウェルベックセロトニン』レビュー「暗めの主人公です」)を引用するにとどめておく。

 

「失神」(初出9.) 次を参照。ただし「Archimedean twist」では失神以前ではなく以後を問題とした。

いろいろな失神bot(@shisshinbot)/X

 

「後言語」(初出10.) 造語。英語において「postlinguistic」は発達段階における言語習得後を指す形容詞で、ここで漠然と指示している「後言語」とは関係がない。

 また「Post-Language Poetry」なるものが存在する。これはアメリカで1960年代末頃から興った「言語詩Language Poetry」というポストモダン的潮流の、さらにポスト存在である。やはり「後言語」的想像力とは関係がない。

POSTLANGUAGE POETRY

Language poets - Wikipedia

 

「『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』」(初出misc.) 叙事詩

 

 

G.

 

 最後に、『貞短そ』に含まれることができなかったノクターンノベルズ作品の読書メモ(非貞操逆転モノ)を紹介して、この補篇を終わりにしたい。

 

エルフ性奴隷と築くダンジョンハーレム――異世界性事情は遅れているようなので、寝取って仲間を増やします――

https://novel18.syosetu.com/n2560fx/

「メモ:総合69位 妙な文体だな 「心を守るため、絶望を興奮に変えていたのだ。」」

 

学園物の乙女ゲームの世界に転生したけど、チート持ちの背景男子生徒だったようです。

https://novel18.syosetu.com/n0768gj/

「メモ:総合168位 本家から移転 奴隷ハ文体=文末過去形の連続 新鮮なゴミ パンの作り方くらい調べろ

 

Aランク冒険者スローライフ

https://novel18.syosetu.com/n7437du/

「メモ:なろう本家で結構伸ばしてる人 滅菌された空間 スローライフの快楽は構造的虚無を愛せるかであり、下手」

 

えっ、転移失敗!? ……成功?

https://novel18.syosetu.com/n6370ds/

「メモ:ドラマーのくせにあらすじと構成壊滅的に下手なの何? 性産業 3pは難しい」※作者のプロフィール欄いわく、「SIBERIAN NEWSPAPER」というプロバンドでドラムを叩いているらしい。

 

異世界ゆるっとサバイバル生活 ~学校の皆と異世界無人島に転移したけど俺だけ楽勝です~

https://novel18.syosetu.com/n4903fq/

「メモ:どういうリアリティ? 青銅器の導入を端折る原始生活ものマジ?」

――田中はどれをとっても人並み以下だった。

 決して物覚えが悪いわけではなく、努力もしている。

 それだけに、彼の出来の悪さが可哀想に感じた。

 

「いや、もういい、分かった。十分だ」

 オタクは急に捲し立てるから驚く。

 俺はマシンガントークの田中を制止した。

「とにかくいつもいつもパソコンをしているわけだな?」

「そういうことでござる……」

「すると、単調作業が向いているかもしれないな」

「単調作業でござるか?」

 俺は「そうだ」と頷く。

「例えば集めた貝殻を砕いて炭酸カルシウムにしたり、オリーブからオリーブオイルを抽出したりといった作業だ。何度も何度も同じことをしなくてはならないから面倒くさいが、生活していくには必要不可欠でな」

「それを拙者が……」

「これだったら不器用でも問題ないし、大事なのは持続性だ。お前は能力こそ低いがやる気は満ちている。こういった単調作業では根気が必要になり、大半の者は弱音を吐くが、お前ならやりきれるんじゃないか?」

(「033 適材適所」)

https://novel18.syosetu.com/n4903fq/33/

 

転生したらR18ゲームの教官だった・・・

https://novel18.syosetu.com/n9348ib/

「メモ:これ含め、文体がつねに問題となる アイディアもないのだが」

 

ループした悪役かませ炎使いが真面目に生きたら女勇者パーティー全員が痴女になってしまい世界はピンチ!?

https://novel18.syosetu.com/n0125ia/

「メモ:射精の先延ばし シチュはありきたりだが勢いと愛嬌とキャラ萌えがある エロ無し版読めたもんじゃなさそう」

 

異世界転生の知恵と力を、ただひたすらセックスするために使う【※コミカライズタイトル『異世界好色無双』】

https://novel18.syosetu.com/n9878gr/

「メモ:転生を経てより強固になるジェンダー観 バカエロ勢い冷静なツッコミ 小学生ギャグかつブラック」※:一部コメディパートのキレが凄まじかった記憶。

 

転校してきた北欧美少女が、肉便器になることを想定して備えている

https://novel18.syosetu.com/n8541gd/

「メモ:ゆるやかにくるう テクスト媒体において美少女表象はコストが低い」※:下ネタはあるがエロがないラノベ。エロ苦手な人向け。

 

異世界転移した俺は森羅万象を愛す。〜異世界に来たら、最初に異世界の大地へ腰を振るに決まってんだろ〜

https://novel18.syosetu.com/n0341hx/

「メモ:コンセプシャル いや、何? もっと組織的にやる意思があればなぁ」※:これはかすかに水を予感させる作品だった。

 

 

 

*1:「桃太郎」と「エロあるよ(笑)」と「もうパターン化された“エモ”気持ち悪すぎるんだよ、純喫茶でクリームソーダフィルムカメラで街を撮る、薄暗い夜明け、自堕落な生活、アルコール、古着屋、名画座、ミニシアター、硬いプリン、もう全部飽きた 面白くない」https://x.com/_capsella_/status/1611892581537058816?s=20 の混合。

*2:シェイクスピアハムレット』もまた遅疑逡巡の話だが、その英雄的な物語に比すと現代人はあまりに卑小で散文的である。

*3:ここにはアメリカ・モダニズム特有のジェンダーパフォーマンスを見ることができる。つまり、「新しい女」への危機感。

*4:Web二次創作小説において「転生」の機構が爆発的に流行り始めたのは2008年からであり、その主な担い手は10-20代の若者だった。ところでSS界隈で転生はすぐ王道になったわけではなく、あまりに荒唐無稽なシステムなので受け入れるか入れないかで対立が起こった。それは新しい機構にとびつく若者とそうでない旧世代という世代間闘争の様相をも帯びている。

「転生」が小説家になろうにおける一次創作に活用され始めたのは、おおよそ2011年頃のこと。一次創作においても2歳児の主人公が出てくる程度には若年層向けだったのだが、いつの間にか転生に関して「テイスト」の変化が起き(あるいは普及の結果?)、2010年代中頃から中年を主人公とする作品が一定数現れた。

中年主人公モノに関して、「このような作品ばかりが書籍化されたせいでラノベティーンエイジャーが買わなくなり市場規模が縮小した」と言われることが多いが、そういった説明は短絡的に思える。「中年主人公モノの増加」「市場規模の縮小」「中年消費者の相対的増加」の関係を説得的に説明した文章は、管見の限り存在しない。

追記:「そもそも断片的な統計データしか存在しない」「ティーンエイジャーがメイン読者であるというのはそもそも広告イメージであり実態を反映していない」といったことが次で指摘されている:ライトノベルの読者年齢を考える - WINDBIRD::ライトノベルブログ 

*5:追記:「原作未読」系二次創作を原作未読のまま消費する私としては(『Web二次創作小説の歴史』参照)、ここには当然揶揄の意図は含まれていない。

*6:松澤俊二『プロレタリア短歌』笠間書院、2019年