古い土地

暗い穴

日記 最近書いた/読んだ/聴いたもの

 

最近書いたもの

 

 ここ一週間はずっと「小説家になろう」「カクヨム」向けに四万文字の論考を書いていた。

 

kakuyomu.jp

 

 無から生成したわけではなく、次のブログ記事を下敷きにしている。

「転生オリ主」の出現――「憑依」と「オリ主」の落ち合うところで/「トリップ夢主」の方へ - 古い土地

 とはいえ、結構、かなり手直しした。

 当初の予定としては、常体で書いた『「転生オリ主」の出現』を敬体に直す程度で済ますつもりだった。しかし書いていくうちに内容・表現に穴が見つかりまくり、文献(首を突っ込みたくないと思っていたゼロ年代批評)を新たに読み、以前から温めていたアイディアを盛り込んだ。結果二万文字も増えてしまった。

 お暇ならなろう・カクヨム版も是非お付き合いいただきたい。

 

 ついでに、Web小説有識者向けに次の文献をサジェストしておく。『Web二次創作小説史』と同じくGWに連載を開始しており、被ってしまったな、と思う。

web小説史資料等まとめ(仮)

https://ncode.syosetu.com/n8784ie/

 統計データを使った実証的研究がメインで、より手間がかかっている。さらに自分の論考を書く上で何回も参照させてもらっている。この作者には足を向けて寝られない。

 

 

 

最近読んだ本

 

 最近読んだ本を全部ずらっと並べようかと思ったが、リストを作るのが面倒臭いので、おすすめできるものだけ挙げていく。

 

 

高村峰生『接続された身体のメランコリー』(青土社、2021年)

www.amazon.co.jp

 あまり突飛なことを言わない着実な研究批評。カズオ・イシグロ論とドン・デリーロ論ではそれがとてもうまく機能している。他は非自明性に到達できなかったきらいがある。

 ドン・デリーロ論では『ボディ・アーティスト』をもとに、インターネット以後における「所有」の欲望の行く先を考える。身体、メディア、過去、死。そういったものを所有したいと皆一度は思うだろう(オタクが虚構を所有するために二次創作するという斎藤環の論を想起)。

  欲望がインターネットを通じてヴァーチャルに観念化し、身体を迂回し(身体から逃れたい!)、身体を道具として使いつつ、やはり身体を欲望する。

 

 

大和田俊之『アメリ音楽史』(講談社、2011年)

www.suntory.co.jp

 流石に面白い。ディスクガイド的機能を一切省き、専ら研究対象としてアメリ音楽史を見る。主にカルチュラル・スタディーズの手法による。

 特に1950年代までの記述が優れている。ミンストレル・ショウの話やカントリー・ウェスタンの話、1940年代の演奏家団体・著作権団体・放送団体の諍いなどが恐ろしく綺麗にまとまっている。

 ブリティッシュ・インヴェンションなどいわゆるロック史的なものの記述は笑えるくらい薄い。

 モードジャズをポストモダンの到来とみなすことにはちょっと口を挟みたくなるが、長くなりそうだし生産的な議論ではないので止めておく。

 

 

松浦寿輝折口信夫論』(太田出版、1995年)

 

 文体! 表層! 批評! 

 蓮見重彦みたいな王者(?)の批評である。デリダのようにテクストを精緻に斜め読みしていく。その手際は見事で、文体と分析が不可分に結ぶついている様には憧れさえ覚える。「つた つた つた」の分析(p134-136)がその最たる例だ。

 が、胡乱なポストモダン批評特有の面倒くささは覚悟せねばならない。カロリーが高い。折口信夫について知るモチベが予めある人にお勧めする。私は入沢康夫関連からモチベを錬成した。

 

息を吹き入れ(スフレ)、かつまた盗み取るもの(スフレ)、言うべきセリフを口移しに教えてくれるが、しかしそのこと自体によって、主体としての私自身に固有に属するはずの言葉を私から掠め取ってしまう物、要するに、言葉を与えると同時に奪うもの。神とはそれだ。(p85)

 カッコよすぎる。

 

大嘗祭(だいじょうさい)の「褥」は、婚姻の床ではあるが産褥の床ではない。それは、言葉が発せられる「高御座」とは異なり、「褥」があくまで唖の、沈黙のトポスであることとも通じ合う事実だろう。天皇はそこで、「非能力」状態にもっともふさわしい姿勢すなわち横臥の姿勢をとり、言葉を発さず、子もなさず、或る「時間」の持続を持ち堪えなければならないだろう。(p89)

 寝そべり族?

 

 この本を読んでいて、自分がどうも折口信夫やサン・ラといった「不能ゆえに異常な生産をする男」が好きなことに気づいた。

 

 

重田園江『ミシェル・フーコー』(ちくま新書、2011年)

www.chikumashobo.co.jp

 フーコー『監獄の誕生』を中心に据えた本。

 パノプティコンの話なんて出版以来各所で擦られまくっているわけだが、この本ではむしろそれ以外の部分の読解がメインとなる。『監獄の誕生』の錯綜とした部分にちゃんと付き合って丁寧な読解を試みており、好感が持てる。

 生権力における死の出現をナチス・戦争言説と結びつけるアイディアを、フーコー自身は一度書いたきり放棄していた、というのは知見だった。

 

二十世紀後半という神なき時代にあっても、人は「別の世界un autre monde」への憧れをなお失わない。だが、たとえばそうした夢のような世界そのものを描いた映画はどう観られるだろう。結果は作り手の意図を裏切るはずだ。というのも、人間の感受性はそれほど単純ではなく、そんなもので観る者の想像力をかきたてることはできないからだ。(p236)

 異世界転生への当てつけ?

 

 

北野圭介『新版 ハリウッド100年講義』(平凡社、2017年)

www.heibonsha.co.jp

 映像リテラシーが無さすぎることに愕然として手に取った本。映画に関する最初の一冊としてお勧めできる。

 映画史でも70年代以降はポストモダン期に入って動きがヌターっとしてくる。特にハリウッドの巨大資本としての振る舞いが狡猾かつグロテスクで、気分が悪い。戦前映画好きな人はやはりアンチポストモダンなのだろうか。

 

 

東浩紀動物化するポストモダン』(講談社、2001年)

bookclub.kodansha.co.jp

 流石に面白い。データベース消費の解説や批判なんてネットにいくらでも転がっているが、原典が一番面白いという理由で原典を読むことを勧める。オタクとアメリカ型消費社会の関係については自分の文章でも利用させてもらった。

 

つまりそこでは、オタクたちが作り上げた奇妙にねじれた「日本」のイメージ、中学生の制服を着て占星術を唱え魔法のスティックをもった巫女のような、ある意味でめちゃくちゃで醜悪な想像力を認めるのか認めないのか、それが試されているのだ。(p25)

 オタクは「クール」だと暗に称揚する一方、表面的にはキレキレかつ辛辣なのが笑ってしまう。文章が上手い。

 引用箇所は『うる星やつら』の「さくら」や『美少女戦士セーラームーン』の「セーラーマーズ」への言及。私たちの2020年代も『ホロライブラバーズ トロフィー「ファンタジーを覇する物」獲得ルート』から始まったわけで、文脈を盛るというオタクの伝統は今も生きているらしい。

 

 話の流れで、『ホロライブラバーズ』に関して書いたものの結局使わなかったテクストを以下に掲載する。

 

 例えば、『ホロライブラバーズ トロフィー「ファンタジーを覇する物」獲得ルート』(2020-21年)では、まず実在のVtuber集団「ホロライブ」を攻略対象とする架空の恋愛ゲーム『ホロライブラバーズ』を設定する(後にミーム化するがこの段階では作者の独創である)。それを攻略していく様子、しかもただ攻略するのではなく早解き(RTA)を目的として攻略する様子を、「ニコニコ動画」において「淫夢」文化と「RTA」文化の合流地点から独自に発展した「biim兄貴リスペクト」(今日RTA動画でよく見る編集法)方式で動画化し、それをさらにテクスト化した「RTA小説」という体で叙述する。

 補足しておくと、架空創作物(ゲーム・漫画・アニメ)世界への転移・転生は「Arcadia」「なろう」の一次創作で2010年頃から定石となっている。『オーバーロード』『はめフラ』の名を挙げておく。

 また、2019年頃からbiim式動画の流行を背景に「RTA小説」がSS投稿サイト「ハーメルン」で流行っていた(『IS』二次の『IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート』が発祥)。『IS』等のメタが回りきった原作に対する二次創作はアイディアの実験場のようなところがあり、何が起こっても「よう思いついたね」で笑い飛ばせる。しかしなぜ、『ホロライブラバーズ』は最初から「RTA小説」でなければならなかったのか? 欲望の隠蔽法、迂回法がVtuberのオタクっぽいといえばそうだ。

 

 

 

最近聴いたもの

 

open.spotify.com

 

 現代ジャズいっぱい聴こう運動をやっている。上のプレイリストは「for me か not for me かをすぐ判断できる」曲を集めたもの。ただしインスト限定(一部例外あり)。だってボーカルを入れてキャッチーにするとかズルじゃん……。

 特に良いと思っているのが、北欧出身のベース奏者ペッター・エルド(Petter Eldh)が率いるサックス三人編成のバンドKoma Saxo、そしてアメリカ出身のアルトサックス奏者スティーヴ・リーマン(Steve Lehman)。

 機会があれば別記事で扱う。ここで紹介したのは予告のためだ。

 

 あとは某氏に教えてもらったクラブミュージックを聴いていた。UK、シカゴ、アフリカ。

planet rave - playlist by Spotify | Spotify

160 Footwork / Teklife / Chicago Juke - playlist by Kidinnu | Spotify

Singeli/Techno-singeli - playlist by Caioba | Spotify

AMAPIANO grooves - playlist by Spotify | Spotify

 

 裏で60-70年代の白人音楽寄りのロック・ポップスをマッピングする予定なので、私が気に入りそうなものがあればこっそり教えていただきたい。

 好きなものはフランク・ザッパスティーリー・ダントッド・ラングレン『Something/Anything?』も好印象を持った。

 嫌いなものはロック的なボーカル、ロック的なギター、ロック的なメロディ。