古い土地

暗い穴

HACHIMAN「おれが今日 ここに来たのは……」[このSSの続きを読む]

 

1:以下、名無しが深夜にお送りします

 

HACHIMAN「

 

おれが今日 ここに来たのは

偶然が重なった結果というべきで

なにも証しがあったからではない

ただ毎夕 鳥たちの喃語に耳を傾け

河底をあるく幾千の死馬の群れを率いたおれらであってみれば

やはり単なる偶然ではないのだろう

 

おれらは今日 言葉を減らしに来た

灰の中から凍ったエロースを探り当て

苔の胞子を散らしていく

芽吹くころ おれらは生きてやいないが

はやくも 

北方の石の名と

春分の正確な複製とが

リストから失われていることに気づく

 

おれは今日 詩をうたいに来た

書くことと読むことを問うのだから

その力学はおよそ人のものではない

ただまばたきする間の軌道に 

おれは 

いま世界がその中にある穴を

血中のマイクロプラスチックを

見出す

 

 

雪ノ下「……は?」

 

 

3:以下、名無しが深夜にお送りします

 

くぅ~疲れましたw これにて完結です!

 

 

4:以下、名無しが深夜にお送りします

 

後書き

 

 やることなすこと全てが詩になってしまう男がいる。

 そういったとき、二つの可能性が考えられる。一つは異常環境。彼はあらゆる散文的行為が事後的に詩だと認定され言語化されてしまうという、シュルレアリスティックな状況に身を浸している。

 もう一つは詩人。彼はたしかに私たちと同じ世界を生きているのだが、しかし道行く人の誰もが振り返っては詩の登場を予感し、実際そうなるという、宿命付けられたキャラクタである。

 HACHIMANが後者の詩人であることは疑いようもない。

 

 また彼はこうも言うだろう、「間違っているものは減らさなければならない」と。かつて彼は死んだ春をよみがえらせようとした男であった。

 

 

6:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 はたして、それは本当だろうか。というよりむしろ、本当らしさが先の記述に一片でも含まれていただろうか。

 

 HACHIMANに付随する嘘っぽさ/本当らしさの二項対立は、本作の外的ギミックとも密接に関係している。この点を明らかにするため、本作がまがりなりにも渡航やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(以下『俺ガイル』)の二次創作の姿を借りていることから話を始めよう。その際、次のことに注意する必要がある:HACHIMANは『俺ガイル』の主人公「比企谷八幡」と(ひとまずは)なんら関わりがない。

 それでは、HACHIMANとは何者なのだろうか。pixiv大百科から引用してみる(後述するようにpixiv大百科というチョイスも地味に重要である)。

 

HACHIMANとは、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公、比企谷八幡に原作と大きく離れた設定やチートじみた能力を付与したメアリー・スーの一種である。

端的に言えば、古くから続く「U-1」や「スパシン」の系譜。

[……] 比企谷八幡をベースとしながらも、容姿や性格、過去といった設定を大きく改変し、抜群の運動神経、明晰な頭脳、優れた顔立ち、悲惨な過去、俺ガイル以外の作品に出てくる能力などを付加した魔改造キャラクターがHACHIMANである。

なお、設定改変がなかった場合でも、原作と比べて明らかにキャラがズレすぎていたり、何故か目が腐っていなかったりすれば対象となる。

メアリー・スーにはよくある事だが、主にpixivやハーメルンなどの「ユーザー間の交流に重点を置いたSS投稿サイト」に現れる傾向がある。

https://dic.pixiv.net/a/HACHIMAN

 

 そもそも二次創作が大量消費される過程で、原作主人公と似て非なる怪物的な「魔改造主人公」がシェアキャラクタとして欲望の対象になること自体、なにか異様な状況だと言わざるを得ないが、ここでその点を深堀りするつもりはない*1

 

 

8:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 話をHACHIMANに戻す。結論から言えば、彼は少なくとも潜在的に詩人であった。それも「本物の詩人」にも「偽物の詩人」にもなりえた、稀有な存在であった。

 

【不特定】何かしらの才能溢れる比企谷くん

 

原作:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

八幡が何かを極めて才能爆発させてる作品を探しています。

料理、音楽、絵、スポーツなどなど…

恋愛要素、アンチヘイト、クロスオーバーは合っても無くてもどちらでも!

原作崩壊、キャラ崩壊もとりあえずは大丈夫です!

たまにこれ八幡でやる必要ある?ってくらい八幡要素ない作品もありますがそれも今回は大丈夫です!

 

【除外条件】

オリキャラやクロスオーバー作品のキャラが出すぎている

意味わからないレベルのハーレム

原作はあくまで俺ガイル

 

サイトはハーメルン以外でも大丈夫です!

 

神童 2022/06/22 04:41   返信:2件  UA:5073  報告 一覧

 

ジョージⅩ

マントゥール 演技の才能 アクタージュ

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14385446

殴る八幡 ボクシングの才能

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9416061

斬り生業 呼吸の才能 鬼滅の刃

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12172556

俺が提督だって!?……いや間違ってないよ提督(響)

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7001786

打ち師 バレーの才能 ハイキュー!!

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11237642

俺のCM出演は何かがまちがっている。 演技の才能

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6214174

八幡奮闘記 プロデューサーの才能 デレマス

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9612975

 

2022年06月22日(水) 13:09 (編集:2022年06月22日(水) 14:52) 報告 一覧

 

神童

ジョージXさんありがとうございます!

順番に読んでいこうかと思います

 

2022年06月22日(水) 14:40 報告 一覧

 

https://syosetu.org/?mode=seek_view&thread_id=30675

 

 彼の伝説性・英雄性・神話性はそのまま世界に対する的確な批評になっている。作者の目的は、このリストの末席に「詩の才能」を付け加えることだった。

 

 

9:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 捜索スレッド「【不特定】何かしらの才能溢れる比企谷くん」で紹介された作品を読んでいると気づくことが二つある。

 

 一つ目は、本作が他の「HACHIMAN」作品と比べて遜色ないこと。

 実のところ本作は二次創作を完全に模したものではなく、架空の二次創作として見えるよう意図的に穴が作られている。たとえばタイトルは本来なら『八幡「おれが今日 ここに来たのは……」』となるところだ。というのも、文字列「HACHIMAN」は作品内ではなく二次創作読者の語りの間でのみ登場するものだからだ。

 しかし『俺ガイル』二次の実作を読んでみると、本作でデッドボールを狙ったつもりが、HACHIMAN類型の二次創作としてはまだまだストライクの範疇であったことに驚かされる。今まで詩人HACHIMANの存在が知られていなかったのは、ひとえに詩が現代人の関心を集めてこなかったせいであり、そのギャップを埋めたのが本作の仕事ということになる。

 

 二つ目は、リストに挙げられた作品が全て2016-20年にpixivで連載を開始していること。

 本作はSS掲示板に投稿されたSS(正確に言えば「[このSSの続きを読む]」に表れているように、掲示板のSSが外部のまとめサイトでまとめられたもの)という体をとっている*2。しかし、この選択は作者の想定以上に時代錯誤だったようなのだ。すなわち、「HACHIMAN」という言葉が流通するようになった2016年頃にはすでに、『俺ガイル』二次の主戦場はSS掲示板からpixivに移行していた。

 

 

12:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 時系列の整理のため、Googleトレンドを使ってGoogleでの単語検索量を調べてみよう。

 赤が「俺ガイル」、青が「俺ガイル SS」の検索量である。赤いグラフの意味は非常に分かりやすい。

 

①2011年3月に第1巻が発売された『俺ガイル』は

②2013年4-6月のアニメ第1期放映以来、Googleでの検索量がグラフに反映され始め

③2015年4-6月のアニメ第2期放映中、爆発的に検索量が伸び

④2019年11月発売の第14巻で本編が完結した後も人気は衰えず

⑤2020年7-9月のアニメ第3期で再び検索量が増え

⑥以降は検索量が減少傾向にある

 

 「SS」の青いグラフについては、次の二点を指摘しておく。

 

①最盛期はアニメ第2期放映開始の2015年4月から2018年9月頃まで。以降はおおよそ直線的に検索量が減少する

②アニメ第3期の発表があまりSSの検索量に結び付いていないように見えるが、グラフの負の傾きを水平に戻す程度の効果はあった。第3期終了後に揺り戻しで急落する

 

 「HACHIMAN」についてもGoogleトレンドで調べてみた。検索量が一定水準に達していないせいでギザギザした見にくいグラフになっている。

 信頼性は微妙なところである。おそらく左の「注」のライン(2016年1月)を越えてからは、『俺ガイル』の二次創作の主人公を揶揄した言葉としての「HACHIMAN」の検索量を反映しているのではないか。

 

 2016年11月(グラフで最初に100の値に届いたあたり)にpixiv大百科で「HACHIMAN」の記事が作成されている。また同時期に、現在40スレまで続いている旧2ちゃんねるの「【pixiv】HACHIMAN信者を見守るスレ【ハーメルン】」スレの1スレ目が建てられた。

 特にスレのタイトルで「pixiv」が二次創作小説投稿サイト「ハーメルン」より先に来ていることは示唆的であろう。スレ内でもpixivの作品があげつらわれていることが多い。

 

 次に行うべきは、定量的に「SS掲示板(SSまとめサイト)」「ハーメルン」「pixiv」という三つの媒体を比較することだ。しかしこれは相当困難な仕事になる*3。たとえば後者二つについて、「八幡」という単語がハーメルンで2060件、pixivの小説部門で85197件でヒットしたという事実をもってして、pixivが40倍の規模を持っていると判断するのは誤りである:ハーメルンだと100話で構成される1作品は1件として扱われるが、pixivだと100件としてカウントされる。

 代わりに定性的な印象を並べてお茶を濁しておく。2015年頃にはSS掲示板の賞味期限が切れていた。ハーメルンは長編向け、pixivは短編向けのサイトであり、どちらも劣悪な作品はとことん劣悪だった。いわゆる「台本形式」(発話の前に発話者の名前を入れる形式)の二次創作がハーメルンだと許されず、pixivだと比較的許されていた。

 

 ともあれ、「[このSSの続きを読む]」ことと「HACHIMAN」の接合は、(pixivがSS掲示板の台本形式を受け継いだとはいえ)歴史的ではない想像上の繋がりであって、そのことが本作により一層のいかがわしさを与えている。

 

 

13:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 『俺ガイル』二次創作およびHACHIMANの位置づけに関して、作品の読解に必要な範囲の説明をこれで終える。

 以下ではいくつかのテーマを通じて、本作のさらなる読解を試みたい。

 

【詩の炉】

 

 本作は「書くことと読むことを問う」ものであり、その中心に詩があるのだから、「これは詩と言えるのか」「そもそも詩とはなにか」といったジャンル論を踏み込まないではいられない。本作が『俺ガイル』SSを模していることも、現代において可能なポエジーの追求という観点で捉える必要がある。

 

 本作の文体は基本的に、1950-60年代の日本現代詩の模倣になっている。もちろん、それが何故かゼロ年代発祥のインターネット匿名掲示板文化や二次創作文化と悪魔合体している点に謎があるわけだが。

 さて、模倣先となった現代詩は、リアリティ水準だけで言えばダークファンタジーのようなものである。それゆえに、たとえばフロムソフトウェアのゲームのフレーバーテキストにポエジーを感じるのと同様の消費が可能だ。

 

おれが死んだのは 今度がはじめてなのではない おれが白い鳥であつたのも おれが一寸ふざけただけのこと あんな時 おれはおれさえも見失いそうになるのだが 答えはしかしきまつている 石ころを九つ拾おう これで背骨を作り 砂や灰で肉をつけて 背広を着てまた街に出て あの たちの悪い草の実を あつちにもこつちにもまいてこよう 海が陸地になり 陸地が海になり おれはおれになり またおれが出来る 川下へ行つて髪の毛でも探つてこようか ガス中毒で死んだ女の髪は これは使いものにならないが この頃は これが滅法多くなつた

入沢康夫夏至の日』 「転生」)

 

別名「瞳のひも」としても知られる偉大なる遺物

上位者でも、赤子ばかりがこれを持ち

「へその緒」とはそれに由来している

 

全ての上位者は赤子を失い、そして求めている

故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし

それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ

 

使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう

だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった

フロムソフトウェア『Bloodborne』 「3本目のへその緒」)

 

 

14:以下、名無しが深夜にお送りします

 

 現代における詩の様相を考えるにあたって詩の専門家が見落としてきた詩とは、ズバリ次のことである。

 

僕は、ついてゆけるだろうか

 

君のいない世界のスピードに

 

久保帯人BLEACH』第49巻)

https://bokuranotameno.com/post-7104/

 

 言うまでもなく、『BLEACH』はテキスト媒体ではなく漫画だし、巻頭ポエムの発話主体として明確に作品内のキャラクタが設定されているし、ファンは「オサレ」という奇妙な概念を標準的な物差しとして使っている。このような状況で、何をポエジーとして利用し交換し感じているかの議論は難しい。

 だがポエジーの受容というものを真剣に考えるなら、当然やるべきなのだろう。

 

 傍流のポエジーとして他に呪文詠唱の分野がある。ここで言っているのは『スレイヤーズ』(第1巻1990年)以降に独特のフェティッシュを持った類のことだ。

 

黄昏よりも暗きもの 

血の流れよりも赤きもの

時の流れに埋もれし 

偉大なる汝の名において

我ここに闇に誓わん

我らが前に立ち塞がりし 

全ての愚かなるものに

我と汝が力もて 

等しく滅びを与えんことを!

神坂一スレイヤーズ』 竜破斬(ドラグ・スレイブ)の詠唱)

 

 文面だといささか苦しい感じもするのだが、音声媒体で聞けば今なお力を失っていないように思える*4。こうした呪文詠唱(他に『BLEACH』「破道の九十 黒棺」など)は、冷笑となろうの2010年代に数を減らしていき、多くは詠唱破棄や無詠唱にとってかわられた。

 

 まだ列挙したりない感はあるが*5まとめに入る。

 そもそも現代日本において「ポエム」という言葉は、もっぱら「痛い・自分よがりな・意味不明な文章」を指す日常語彙になっている*6。「詩」がほぼ日常会話で出てこないのとは対照的だ。だが、こういった「ポエム」も内包するイデオロギーが違うというだけ、出来が悪いとか既存の価値基準では測れないとか量が異常に多いだけで、やはり詩なのだろう。少なくとも、詠み人知らずの古謡よりは近代詩に近いのではないか*7

 本作の読解に戻れば、このようなポエジーの拡散を前にして詩人HACHIMANはすっくと立ち上がり、「詩をうたいに来た」のである。

 「言葉を減らしに来た」と明言する彼の企図は、しかし明確ではない。なぜ「言葉を減らしに来た」と彼は言葉にするのか。あるいは「言葉を減らす」ことは諸物の名が「リストから失われている」ように過去に関わる事象なのか。まったくの比喩なのか、嘘や誤魔化しなのか。

 彼は「偶然が重なった結果」とも「単なる偶然ではない」とも言う。結局のところ、私たちの前にはただ彼の「まばたきする間の軌道」が差し出されているだけである。

 

 

16:以下、名無しが深夜にお送りします

 

【クールポーズ】

 

 先のポエジーに関する議論で明確に言及を避けたものがある。それは歌詞だ。

 これはすでにかなりオーソライズされている分野であって*8、ロックにフォーク経由で文学性を注入したボブ・ディランノーベル賞をとっているし、ラップが上手すぎるうえに歌詞が重すぎるラッパーのケンドリック・ラマーは文学的にも研究されている。日本では1980年代にすでに、詩人批評家の吉本隆明および天沢退二郎によって中島みゆきが論じられていた。

 

 本作を読んで思うのは、これがラッパーのセルフボースティング(自己拡大表現)とどこか似た感触をもたらしていることである。誇張からくる空疎さの感覚がここにはある。お前が率いた「死馬」は「幾千」も居なかっただろ、嘘つくな、といった風に。

 ひるがえれば、日本現代詩のある系譜にもセルフボースティングを見出すことができるのではないか。1950-60年代の詩人が自身の詩の価値を確信して「LYRCIST 気取る FAKEASS へこます」(BUDDHA BRAND「人間発電所」)ように喧々諤々の議論をしていたのは周知の事実である。

 以下ではラッパーのラキムが書いたリリックを見てみよう。ラキムは複雑な韻と巧みなフローから「サイボーグ」とも評された現代ラップの祖である。彼の場合、クールポーズは知性の誇示に現れる。それはギャングスタとして成り上がるための身体知というよりはむしろ、高度な抽象性を兼ね備えた思弁的韻のことであった。

 

www.youtube.com

(該当箇所は動画の1:26~)

They wanna know how many rhymes have I ripped and wrecked

But researchers never found all the pieces yet

Scientists try to solve the context

Philosophers are wondering what's next

Pieces are took to labs to observe 'em

They couldn't absorb 'em, they didn't deserve 'em

My ideas are only for the audience's ears

For my opponents, it might take years

 

やつらは俺がどれだけ韻を切り裂きズタズタにしたか知りたがっている

しかし研究者たちはまだすべての破片を見つけてはいない

科学者は文脈を解き明かそうとし

哲学者は未来を予測しようとしている

破片は研究室に運ばれ観察されたが

やつらはそれを理解できなかったし、その資格も持っていなかった

俺の思想は俺の音楽を聴く者たちのためにある

俺の反対者には、何年もかかるだろう

(Eric B. & Rakim「Don't Sweat The Technique」1992年)

注:「人々(フェイクMCなど)がラキムのリリックを恐れるあまり、彼の放った韻はまるで古代の遺物のように、研究者たちによって慎重かつ厳重に調査されている。しかし彼の韻があまりに複雑で致死的なので、科学者たちがそれらを復元し理解することはない」https://genius.com/44917?

 

 日本現代詩に現れたクールポーズとはたとえば、感情の抑制であり、自分を語らないことであり、観念的なことを避けた具体であり、死の誇張である*9

 

四人の僧侶

めいめいの務めにはげむ

聖人形をおろし

磔に牝牛を掲げ

一人が一人の頭髪を剃り

死んだ一人が祈祷し

他の一人が棺をつくるとき

深夜の人里から押しよせる分娩の洪水

四人がいっせいに立ちあがる

不具の四つのアンブレラ

美しい壁と天井張り

そこに穴があらわれ

雨がふりだす

吉岡実『僧侶』 「僧侶」)

 

 この詩もPVが作られていれば、ブリンブリンのゴールドチェインをつけた吉岡実が大勢の水着の女性に囲まれて無表情で佇んでいたり、車がローライダーで跳ねたりしていたに違いない。

 

 

18:以下、名無しが深夜にお送りします

 

【HACHIMAN】

 

あの男はなんだ?

 

カレ博士: 開けるべきではなかった。開けてはいけません、ノア。私は…あれを見ました。言葉を持ってない、多すぎる。私たちは少し削らなければ、必要なのは10個ぐらいだ。私は何を言っているんだ?泡風呂のような感じです。

 

(2人目のカレ博士が観察窓に近づき、前かがみになって大きく笑った。人差し指でガラスをリズミカルに叩き、7秒後に床に沈む。)

 

Tanhony『SCP-4972 - Something is Wrong』

http://scp-jp.wikidot.com/scp-4972

 

 

空の高みから聞こえるあの音はなんだ?

 

いつもきみのそばを歩いている三人目の人は誰だ?

ぼくが数えると、きみとぼくしかいないのに

白い道の先を見ると

いつもきみのそばを一人の人が歩いている

褐色のマントに身を包みフードをかぶって

男だか女だかわからないが

――きみの向こう側にいるのは誰なんだ?

(T.S.エリオット『荒地』)

 

あいつは、詩人ではなく、ましてやにせものの詩人*10などではなく、あいつは

 

 

 

 

[spoiler]

 

 

凍ったエロース 「エロあるよ(笑)」のパロディ。

 

 

2:以下、名無しが深夜にお送りします

期待

 

5:以下、名無しが深夜にお送りします

え?死ね

 

19:以下、名無しが深夜にお送りします

狙ってるとしか

 

cf: まどか「壁山が一位・・・?」

https://hayabusa.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1352631803/?v=pc

 

 

ブコメの再考:『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』と『イジらないで、長瀞さん』を ①2011年に連載開始した ②トラウマが背景にある ③アンチハーレムラブコメ として特徴づけること。

長瀞さん』の詩学

官民提携事業としての『長瀞さん』=国家との関係から読む『長瀞さん』の近代性。

 

高木さんはからかい上手であることしか許されなかったのではないか。一度抱いたものがみな二度目から崖になってしまうように。

 

 

 

 

*1:たとえば『Web二次創作小説史1995-2008 転生オリ主とトリップ夢主』を参照。https://ncode.syosetu.com/n8751ie/ 

HACHIMANが転生オリ主の時代に必要とされた魔改造主人公であることも付け加えておく。次の脚注14を参照。https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2023/04/21/041105 

*2:ちなみに「以下、名無しが深夜にお送りします」はしたらば掲示板SS深夜VIPのデフォルトネームから引用している。これは「SS速報」で検索したら真っ先に出てきた、という程度の理由しかない。なお、各レスの投稿日時とIDが略されているのは、一つは読者の便宜のためであり、一つは2010年代末からハーメルンで再燃している「掲示板形式」の二次創作に影響されたためである(ただし「掲示板形式」は作品世界の人物がレスする形式であって、SS掲示板の形式とは本来重ならない)。

*3:SS投稿サイトとしてのpixivを統計的に扱った文献としては次が参考になる。『web小説史資料等まとめ(仮)』https://ncode.syosetu.com/n8784ie/9/ 

*4:次の2007年のスペイン語字幕動画を参照。日本における『スレイヤーズ』の普及はアニメ経由だったという話を聞くが、もし海外に軽微でも波及があったなら、その土地の呪文詠唱史にいかに組み込まれたのだろうか。https://www.youtube.com/watch?v=M2zls8EEPds&ab_channel=AnimeiPod 

*5:補足:笑いと詩(とミームSNS)というテーマに触れておきたい。次のツイートは詩ではないのか? 私たちは爆笑した後かけがえのないポエジーを覚えはしないか? 

「両手をパタパタやって浮遊して帰ろうとしていたら、隣にいた知らないおじさんも同じタイミングで両手をパタパタやって浮遊しだして、お互いに「えっ」となって気まずい会釈」 https://x.com/gsnc_/status/1456552621653725189?s=20 

「チャック全開で歩いていたところ、ふわふわと飛んで来たタンポポの綿毛が股間に直撃し、失神」 https://x.com/gsnc_/status/1512019540674490368?s=20 

*6:『日本俗語大辞典 新装版』『平成の新語・流行語辞典』『隠語大辞典』などに当たったが記載無し。

*7:詩壇の人たちは「詩」と「ポエム」の二項対立を作りがちである。しかし「ポエム」の文化研究や読者受容の研究は、近現代詩の遺産を継承することとは別に、たぶん詩壇の人が(も)行わなければならない。批評を自分でやるなら研究も自分で、である。「ポエム」を「詩」に引きつけ「詩」を「ポエム」に引きつけることは、近代詩やその内在するイデオロギーを相対化するのに役立つだろう。

*8:「ポエム」の文化研究の重要性を上の脚注で説いておいてさっそく矛盾したことを言う。正直、消費のされ方を見ても権威化のされ方を見ても、歌詞は詩のオルタナティヴというより小説のオルタナティヴとしての機能の方が強いのではないかと思うことがある。またおおよその歌詞論は音楽の作用を適切に扱えていない。そもそも、音楽を語る私たちの言葉は貧しすぎる。

*9:戦前日本のモダニズム詩はシュルレアリスムなどヨーロッパ詩の影響下にあった。戦後日本のモダニズム詩におけるクールポーズも突き詰めれば、「アメリカなるもの」の遠い反響なのかもしれない。

*10:「――またそれだ。そんな態度をとって、それで何かイキなことだとでも勘ちがいしているのとちがいますか。ひょっとしたら、私に、あなたの痛い所に触れることを言いたいだけ言わせておいて、内心では「何一つ反バクもせずに言わせてやったぞ」と思うことで、自分の優位を自分に納得させ、そうすることで自分を免罪しようというのかもしれないが、そうは問屋がおろしませんよ。そういう態度、そういうあなたの作品、そんなものは、たとえどんなに入り組んだ仕掛けになっているにしても、現在の状況にとって何の価値もありはしない。あいまいな時代だからあいまいな詩を書くというのですか。何があいまいな時代です。いま必要なのは、あいまいとか韜晦とかとはまったく反対の、毅然とした意思表示、時代を導く言葉なのではありませんか? ――(やや肩を落して)さあ、わかりません。」(「自己韜晦についての対話」1968年 『入沢康夫詩集(現代詩文庫31)』)