古い土地

暗い穴

なろう批評5:私のお気に入り

 

 今回は私が個人的に気に入った作品たちを一気に紹介する。次のユーザーページを参照*1

https://mypage.syosetu.com/275205/

 ブックマーク「Theta」に入れたものが今回言及するお勧め作品。ブックマーク「Lambda」に入れたものはリマークが必要そうなもののみ取り上げる。

 

 予め断っておくと、今回の記事は失敗だった。量が多いと選者の欲望が透けてきてしんどくなるのだ。下世話なものが下世話なままお出しされている状態。「なろう批評」シリーズとしてはもうちょっと距離をとりたかった。

 

 

 

 

Theta

 

まず以前の「なろう批評」シリーズで触れた作品を列挙する。

ι カテゴリーの記事一覧 - 古い土地

 

・第一回(ダンジョン経営編)

絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで

https://ncode.syosetu.com/n5490cq/

 

・第二回(転移転生の歴史編)

なろう史資料集

https://ncode.syosetu.com/n1393gt/

 

・第三回(VRMMO編)

VRゲーム自作板過去ログ

https://ncode.syosetu.com/n0975gv/

 

・第四回(ギスオン編)

ギスギスオンライン

https://ncode.syosetu.com/n0776dq/

不死なるプレイヤーズギルド

https://ncode.syosetu.com/n3069ez/

 

次からはこのブログで初めて扱う作品。

 

 

俺のメガネはたぶん世界征服できると思う。

https://ncode.syosetu.com/n4686ek/

魔術師クノンは見えている

https://ncode.syosetu.com/n1314hd/

 

 南野海風氏による作品二つ。『俺のメガネ』は狩人の少年が暗殺者学校に入って卒業するまでを描く、『ハンター×ハンター』味のする異能バトルもの。『魔術師クノン』は盲目の少年が「眼」の開発に挑む魔術学園もの。なろうのエッセンスを交えつつエンタメとして上質で、しかし適宜ジャンクなため上品さからくる嫌味もない。キャラ造形(フラットとラウンドのバランス)が本当によく、世界観設計がよく、ギャグが面白く、展開にはワクワクさせられ……欠点もあった気がするがすぐには思い出せない。強いて言えばあらすじが的外れなのが難点。

 同作者の『狂乱令嬢ニア・リストン』と『蛮族の王子様』も最後まで読んだが、こちらは読まなくていいかなと思う。

 

 

天才魔術師を弟に持つと人生はこうなる

https://ncode.syosetu.com/n8703hn/

 

 主人公が狩人、弟が魔術師という組み合わせで始まるハリポタ要素の混ざった魔術学園もの。文章が惚れ惚れするぐらい上手い。第一話でひっくり返ってしまった。

 まだ十二歳。強い弓を引くには体の成長を待たねばならない。

 しかしだからこそ、威力を補うための、急所への正確な射撃は磨かれた。

 

 村を見下ろす山の中腹、冷たく深い茂みで、二人は息を潜めていた。視線の先には狙いの獲物がその臆病を振りまくようにたどたどしく歩いていた。

 

 コビトジカはここいらに生息する、名前通り小型の鹿だ。成体になっても兎を二回り大きくした程度にしかならない。数こそ多いが警戒心が強く、少し風が枝葉を鳴らしたというだけで飛ぶように逃げるので、コソ泥鹿とも呼ばれていた。

 

 狩りに肝要なことは待つこと、そして機を得たら決して逃さないことだ。

 

 年の割に凛々しい顔を引き締め、息を詰めて矢をつがえる。

 弦を引き絞る乾いた音が小刻みに上がり、やがて一点に狙いが定まる。

 彼の目は現在(いま)ではなく刹那の先の獲物を見ていた。

 命乞いをしていた短弓は許され、射出とともにその身を翻して息を吹き返す。

――〈000.プロローグ〉

https://ncode.syosetu.com/n8703hn/1/

 これを書ける人が設定に関してはなろうのテンプレを利用しているのが面白い。どういうコンセプトなんだろう。

 妹ではなく弟で「お兄様」をやるとエッチになる、という発見もあった。

 

 

異世界で 上前はねて 生きていく(詠み人知らず)

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 治癒魔法使いが欠損女性奴隷を買い集め会社経営を始める、とまとめると『ゼロの使い魔』二次創作の系譜を継ぐ大テンプレ作品のようである。が、ハーレム展開は避けるし、ほのぼのとしているようで背景は殺伐としていることが明らかになるし、ある箇所ではテンプレをゆるやかに外してくる。加えて、単純に文章が上手くストーリーテリングが巧み。野球回(第94-96話)とかね。

 全体的に信頼できる作者だ。最近投稿された『わらしべ長者で宇宙海賊』も感心させられる。

 

 

最高難度迷宮でパーティに置き去りにされたSランク剣士、本当に迷いまくって誰も知らない最深部へ~俺の勘だとたぶんこっちが出口だと思う~

https://ncode.syosetu.com/n7361gs/

 

 タイトル落ち。あらすじでも落ちてる。「追放」メタと言っていいのか。

 あらすじから「腕に覚えアリ」系の嫌味を感じて敬遠していたのだが、いざ読み始めると悔しいが面白かった。コメディのベースにややダークなファンタジーがあり、人間に対する敬意がある。ダンジョン内に一緒に閉じこめられた聖女に対して恋愛感情を抱いて気まずくならないよう、「80歳の既婚の老婆」と主人公が念じる場面は笑える(主人公は本当に目が悪くて聖女の容姿を把握できていない)。主人公が二歳下の弟子をとって悩む場面も良い。

・本来対等な交換関係における一方的なふんぞり返り

・一方的なふんぞり返りによって固定化されてしまう非対称な関係

・年の近い(しかも異性の)ふたり旅における非対称な関係の危険性

・そうした関係の中では向こうも自分の意見を口にしにくいのではないか、という危惧

・向こうの意見が伺えないことで自分が間違った判断を一方的に押し通してしまうのではないかという恐怖

・そして教育とは一方的に相手を変形させてしまうことすらある恐ろしい危険性を持った営みなのだなという気付き

・自分にそんなことできるのかという今更の不安

・そもそも人間全般に他者を一方的に変形させる正当性があるのかという疑念

・それとも一方的という感覚自体が受け手の人格と自立性を軽んじる無意識の態度から生まれているだけの懸念なのかという混乱

・では社会一般における教育制度はどのような理念のもとで運用されているのだろうという興味関心

・というか別にそんなにへりくだらなくてもいいのにという気持ち

・もちろん相手を尊重するのは大事だけど、そのために自分の立ち位置を低めることはないんじゃないかという気持ち

・でもそんな精神指導みたいなこと大して年の変わらないような相手から言われてもいやだよなという気持ち

・というかそういう指導をしようと思うこと自体が非対称な関係の象徴みたいでなんかやだなという気持ち

・相手にどんな態度を取るかというのは自分が決めるものであって他者から強要されるものじゃないのかもなという気持ち

・あと、こんなひとりじゃ手紙も出しに行けないような人間を王様扱いしないでほしいといういたたまれなさ

・(その他、七十七項目)

――〈二章 1-1 ありがとう。いやかと言って〉

https://ncode.syosetu.com/n7361gs/39/

 この解像度がコメディパートにもシリアスパートにも活かされている。

 

 

おれの名を呼ぶな!

https://ncode.syosetu.com/n5484df/

 

 古い。注入されている転生オリ主のエッセンスが古い。2016年に転生前の神様との対話を五話もやるか?(しかもこの箇所が一番面白くない) 転生後の名前は当初「セックス」の予定だったが結局は「セクロス」になったという、下ネタの扱いも古いと言えば古い。ハーレムの築き方も古い。主人公が強大な力を発揮した代償に二週間幼児退行したときには笑ってしまった。身振りがオリ主すぎる。

 だが、熱い作品である。「セクロス」に始まる固有名詞と改名のテーマは、主人公の技に「針仕事の向こう側」「魔女の滅多打ち」といったダサくて忘れられない名前が付けられていることとどこか響いている(これ以後も「名前」のテーマはたびたび出てくる)。幼馴染の冒険者志望の少女「ミーネ」が熊に対し勇敢かつ無謀に立ち向かったのを見た主人公が危うさを感じて教材TRPG冒険の書』を作り始めること。そして『冒険の書』第一弾のシナリオが父親の少年時代の記憶に弔辞として捧げられていることはどうだ。今を生きる戦士と不死の化け物たちに竜が呼びかける「待ち人は来た!」はどうだ。不死の化け物の名前がルイス・キャロル『スナーク狩り』(1876年)から「スナーク」と名付けられた真意はどうだ。オーク仮面の登場と『すべての親を殺せ、すべての親となるものを殺せ』という呪文はどうだ。主人公が幼児退行していたときの「ミーネ」の信頼と恍惚、「シア」の献身はどうだ。

「戦士たちよ! 聞け! 聞け! 待ち人は来た! この絶望を撃ち払う救い主は今ここに現れた! 退け! 退け! レイヴァース殿の邪魔になる! 戦士たちよ、直ちに退け!」

 

 アロヴがいきなり言いだしたことにおれは驚いた。

 

「あんまり煽られても困るんですけど!」

「何を言う。今ここで鼓舞せねばいつ鼓舞するというのだ!」

 

 おれの苦情などどこ吹く風とアロヴはさらに叫ぶ。

 

「そしてかつての偉大な戦士たちよ知れ! 待ち人は来た! 汝らを苦しみから解放する殺戮者――、虐殺の王は今ここに現れた! さあ続け! 我に!」

 

――〈第230話 12歳(夏)…待ち人来たる〉

https://ncode.syosetu.com/n5484df/232/

 シリアスパートの話ばかりしたが、この作品の魅力はコメディとシリアスが絶妙に配合されたバランス感覚(どちらかと言えばコメディ寄り)であり、観念的瞑想から下世話な話まで書ける振り幅である。「弟の服」に始まる展開の脱線させ方が見事。最終的に主人公に惚れた女が12人くらい出てきて中々豪気なのだが、そのうち9人がメイドなのは猶更豪気で、異常なメイド愛を感じる。

 コメディとシリアスが渾然一体としたバランス、他作品でないだろうか。ついでに独自の文体があるとうれしい。後の『しいていうなら』は感覚だけ取り出すと近いものを感じる。

 

 

くたばれスローライフ

https://ncode.syosetu.com/n4996hl/

 

 『おれの名を呼ぶな!』の作者古柴氏の近作。この人2022年に転生トラックを書いてる……。今度は異常な猫愛を以って猫を登場させる。第一章で冒険者になろうとして失敗したり、奴隷になろうとして一番強力な契約紋を刻まれやはり失敗する(後に伏線として回収されそう)あたりの露骨な外し方は笑ってしまう。

 第五章では主人公がでっかい猫になり、主人公以外誰も困っていない。猫の方が良いという心無い人々と、猫でも良いという心の広い人々である。

 

 

ゲーム小説

 

ライブダンジョン!

https://ncode.syosetu.com/n6970df/

 

 ゲーム小説の系譜。ネトゲー廃人の主人公がゲーム世界に転移してゲーム脳を保ったままダンジョンを攻略する。「上位勢の攻略の様子は生配信される」というyoutube以後な設定により転移先の世界はダンジョン攻略最前線に限ってゲーム的(MMORPG的)な競争が生じている。主人公はそこに身を投じる。

 ダンジョン攻略はゲーム小説としてワクワクさせられるし、キャラもめちゃくちゃ立ってる。人間関係において陰湿なところ・ギスギスが割と出てくるが、主人公はネトゲのギルド運営とのアナロジーでこれを眼差すので暗くなりすぎることがない(そうして超越的立場を確保する)。とはいえ「父」を求めるツンデレ狐人「ユニス」を袖にし続けるのは心が痛む。

 欠点を述べる。書籍版打ち切りのゴタゴタによってか、明らかな伏線が放置されたままなろう版は終わっている。特に主人公が「いったん現実世界に戻るけどすぐ帰ってくっから」みたいな態度をとることの説明が一切ない。お前もっと自意識の塊のような人間だろう、と。また、転移先の人々のリアリティと主人公のゲーム的リアリティが衝突しない。作品は主人公のゲーム脳を相対化することを求めているし、この作者なら描ける気がするのだが……。

 ブログで続編掲載中。

『ライブダンジョン!』HP特典 – 文字の冷凍庫

 

 

主人公じゃない!

https://ncode.syosetu.com/n3245fy/

 

 『猫耳猫』(正式名称『この世界をゲームだと俺だけが知っている』)の作者ウスバー氏によるゲーム小説。『猫耳猫』と違ってバグ・グリッチ要素はない。代わりにワザップ・裏技要素が多め。

 この作者はインディゲーム制作者でもあり、ゲームの面白さはどこから来るか、テクスト上で表現できるゲーム的な面白さはどのようなものかを深く研究している。ステータス画面やゲームの設定開示パートが面白くてしょうがない。

 『猫耳猫』の冗長な部分、ハーレムに持って行くまでの無理が克服されているのもうれしい。

 

 

二重勇者はすごいです! ~魔王を倒して現代日本に戻ってからたくさんのスキルを覚えたけど、それ全部異世界で習得済みだからもう遅い~

https://ncode.syosetu.com/n0608gd/

 

 ウスバー氏の別作品。この作者が得意とする梯子外し展開を凝縮している。タイトルはとりあえず無駄にメタを回してみたという感じで、作品の内容とあまり関係がない。ミーム・流行の研究もこの作者らしいところ。

 ぜひ〈41.追放系ヒロインとパーティ募集〉まで読んでほしい。なろう物語類型における「主人公の取り巻きとして主人公を褒めたたえるフラットなヒロイン」を「すごいです係」と命名し(これ自体内輪のミームかもしれない)、活用しきったギャグ。それだけで賞賛に値する。

 

 

お人好しが異世界で一旗揚げますん

https://ncode.syosetu.com/n8706en/

 

 文章も主人公の性格も丁寧で好感が持てる。いや、主人公は物腰こそ丁寧だが、根底にはゲーム的リアリティがある。特筆すべきは主人公を囲む登場人物の気苦労と配慮、ディスコミュニケーション(勘違い)描写の丁寧さだ。敵側として出てくる王国の商会長は切れ者でライバルキャラとして格があるのに、主人公のせいで計画が全部破綻していくのが可哀相に感じる。

 それにしても、「丁寧」な主人公が物語中盤に発した貧困への怒り、世界に対するファックサインは印象に残る。その解決にはマンパワーも土地も政治も経済も何もかも関わるが、結局のところ「チート能力」という幻想抜きには始まらなかった。異世界転生とは楽園を作る試みだ。

 

 

スローライフもの

 

僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。

https://ncode.syosetu.com/n9954hb/

 

 VRMMO小説の古典『R.G.O!』の作者が描く「理想」のスローライフ。「理想」を突き詰めた結果、舞台となる「田舎」は「魔境」でなければならないと結論付けた。主人公の転生三歳児が「田舎」のファンタジー具合や噴出する暴力に怯え、ツッコミを入れながら、飯を旨そうに食っている作品。

 主人公が生まれた「都会」は現代日本とほぼ同じだとされている。一方で祖父母が住む「田舎」は、野菜も山菜もキノコも動き出し、子供たちが捕まえるカブトムシはメートル級サイズで、獣も人間も身体能力は化け物染みており、神仏の類が実在し……とだいぶローファンタジーである。このぐらい幻想の土壌、恐怖を描かないと「田舎の暖かい人間」たち(みんな良い人だ)がリアルでなくなる、と判断したのだろうか。

 転生三歳児の語り手としての信頼できなさも良い方向に働いている。彼は「田舎」の鮮やかな暴力(それも人間の外にあるもの)を語るのみでうす暗さを描かない。陰湿さの徹底的な排除から逆にその存在が仄めかされる。「僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい」といった転生オリ主的な苦悩も、美味しいものを食べればすっかり忘れてしまう。

 田起こしバトルにおける「一町歩抜き」(『24:人外田起し大戦』)は激熱。

 

 

チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~

https://ncode.syosetu.com/n6406gz/

 

 ゆるゆると脱臼し続けるコメディ。メタ含むくすぐりが本当に上手い。十代の主人公が女性にお金を渡すことにどこか快感を覚えていたり、ぬるっとダンジョン経営が始まったり、教会の修道女に褒められてキャバクラを想起したり。

 ギャグにずっとアイディアがある以外言うことが無かった。

 

 

掲示板から

 

過疎ゲーが現実化して萎えてます。

https://ncode.syosetu.com/n5169el/

 

 何が良いって、文体だな、と。これまで文体のある作品ばかり紹介してきたが、『過疎萎え』の軽妙な地の文・会話文、そして掲示板(全員ハンネ付きなのでチャットと言った方が正しいかもしれない)における煽り合いは悔しくなるくらい魅力的だ。ストーリーを忘れた状態で未読箇所を読み始めても言葉の運びだけで惹きつけられる。

 現代世界が異世界に侵食されるタイプのローファンタジー。国家とか軍隊とかデカめの現代組織は出てこないのが個人的には好み。

 軽妙ながらシビアでもあり、「十傑」以外の味方勢力は常に裏切り裏切られる可能性を秘めている。「この戦いが終わったら始末すべき味方がいるみたいだが」「いつものことだろ」といった具合に。

 物語序盤において「カーリア」という一時的ヒロイン(現代世界と融和したいと述べる異世界人。現代人には勝てそうもない)を「十傑」の男三人がよってたかってだまくらかし、コスプレイメージビデオを撮影し始めたときには笑ってしまった。あまりに卑劣、ホモソ。

 

 

しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王

https://ncode.syosetu.com/n4371s/

しいていうなら(略

https://ncode.syosetu.com/n2613ch/

 

 『ギスオン』の作者が2011-2016年に書いていたもの。文体は最初から独特だったらしい。手の込んだ世界観設計と強烈な語りによりそれが部分的にしか知らされないのも共通している。「しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王」のタイトル回収は泣けるし、第十回魔王討伐シリーズの目的をコメディに回収してからシリアスに回収する手口は本当に見事。

 掲示板形式には「物語を進めようとすると掲示板の語りから逸脱せざるを得ない」という構造的欠陥がある。ゆえに続編『しいていうなら(略』では掲示板をワンポイントでしか用いず、『ギスオン』では完全に掲示板を放棄するに至ったのではないか。

 『しいていうなら(略』でアザラシを「エルフ」と呼び、人間大のミジンコを「竜人族」と呼び、鯉のぼりを「ドワーフ」と呼んでいることに凄みを感じる。思いつく発想力、それを面白くする技術力だ。

 

 

 

Lambda

 

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様だった~

https://ncode.syosetu.com/n6459hn/

 

 怪作。ダクファン世界と『おいでよ!どうぶつの森』を混ぜてギャップを楽しむという発想はまだ分かる。だがそこに「ウグワーッ!」が混ざるのはおかしい。『ウグワーッ! 死者を弔いました。50ptゲットです』(〈第2話 まずは拠点を作ろう!〉)

 

 

大相撲令嬢 ~聖女に平手打ちを食らった瞬間相撲部だった前世を思い出した悪役令嬢の私は捨て猫王子にちゃんこを振る舞いたい はぁどすこいどすこい~

https://ncode.syosetu.com/n2595gl/

 

 タイトル落ち。「番付表オープン」はズルい。綺麗な終わり方してるけど第一章「アリアカ王城場所」まで読めば十分。

 

 

限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー

https://ncode.syosetu.com/n5378gc/

 

 この作品、非常に惜しい。第二章までは素直に進められる。逃亡奴隷譚から始まって、ラノベエッセンスが入った児童書の丁寧さで世界の厳しさと人の熱を描く。復讐を誓う男、ピタゴラスイッチ的に無用に死んだ少年、羽化を始める少女。構成も美しい。

 だが主人公に雑に惚れるハイエルフが登場するあたり(第三章終盤)から蓋然性が失われていく。ハイエルフの場合はヒロインレースの賭けを成立させる意図があからさまだ。毎日更新だったから息切れしたんだろうか。

 

 

信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略

https://ncode.syosetu.com/n1217et/

 

 激ポルノ。本編をすっ飛ばして〈あとがき(Web版)〉だけ読んでもらって構わない。ヒロインを読者の欲望に従って造形するとはどういうことかが分かる。

 

 

アビス・コーリング〜元廃課金ゲーマーが最低最悪のソシャゲ異世界に召喚されたら〜

https://ncode.syosetu.com/n9040eb/

 

 ソシャゲを題材としたゲーム小説。主人公は恐るべきゲーム脳で、ゲーム的認識を異世界という現実にはっつけていく。この作品の批評的な点は、主人公の権能(隠れた「チート」)によって認識が現実化されてしまうところにある。第五章では、健気な少女を主人公がゲーム通り「ろくでなし」として扱い続けたために本当に「ろくでなし」になってしまう(これは権能とそこまで関係しないけど)。可哀相。

 「僕ならリセマラだな」や「クマ姦」には笑ってしまう。一方で性的描写がキツめ。

 

 

異世界修行生活 〜異世界転移したと思ったら日本の病室でしかも全身麻痺に絶望だったが、異世界と往復できるらしい。異世界で最弱だが、病室だと魔法が無限に使えるので修行し続ける〜

https://ncode.syosetu.com/n6661gi/

 

 内容はタイトルで説明されている。病弱萌えからの派生。

 万人に勧めることはできないがコンセプトは面白い。実際に読むなら拙いところ(例えば日記にしているための冗長さ)を愛嬌として受け止められるか、小学生的なバトル展開を好ましく思うかが重要である。

 

 

 

 近代小説を読むことが人間普遍の探求だったならば、なろうを読むことは人間普遍からの逃避であり、なろうを語ることは私という人間個別の探求であったと言わざるを得ない。

 

 

 

*1:「評価をつけた作品」欄(スマホだとメニューを横にスクロールする必要がある)を見ると2013年からの評価履歴が辿れてネットストーキングが捗る。2011年頃からなろうを断続的に読んでいたような記憶もあり、ユーザー登録していなかった数年間の記録の紛失が惜しまれる。