古い土地

暗い穴

夏に負けまくっている(近況報告・2025/8/5)

 

夏、意味ない。

 

 

フォークナー『八月の光

この夏は『八月の光』読んでフォークナー泣き

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 意味ない

 

www.iwanami.co.jp

 

フォークナー初心者向け長編でおなじみ、『八月の光』。時は1920年代末の禁酒法時代、いつものヨクナパトーファ郡で愉快な仲間たちが大騒ぎ!!!

自分は『響きと怒り』を読んでるので余裕で行けるだろうと思っていたが、ジョー・クリスマスという人物に物語の軸が移ったあたりで読めなくなってしまった。

 

次は「流れ変わったな」と強く感じた場面。平和(?)なジェファソンの街で、白人の中年女性が殺される事件が発生する。まず彼女の家の傍に住んでいた間抜けのブラウンが、事件当時泥酔していたということで捕まった。彼は追い詰められた結果、酒密売の相棒クリスマスの秘密を明かす。

 

「わかったよ」と彼は言います。「やりなよ。おれを犯人にすりゃいいんだ。知ってることを話して、あんたらを助けてやろうとしてる白人を犯人にすりゃいいよ。白人を犯人にして黒ん坊を自由の身にしてやるとするさ。白人を犯人にして黒人を逃してやりゃいいんだよ」

「「黒ん坊?」と保安官が言いました。「黒ん坊だと?」

「これでもうこっちのもんだと、やつは理解したようでした。みんながやつの仕業と信じてることなど、やつが語れる他の男の仕業と比べればまったく何でもないだろうといった感じでね。「あんたらはお利口さんだよ」とやつは言います。「この町の連中はお利口さんだ。三年間もだまされてたんだからな。三年間も、あいつを外国人だなんて言ってたんだ。

[……]あいつには黒ん坊の血が混じってるんだよ。おれには一目見たときからわかったね。

(フォークナー『八月の光(上)』諏訪部浩一=訳、岩波文庫、2016年、p.143-144)

 

この後クリスマスの大捜索が始まる。

予告されたリンチは、ふつうに気が滅入る。

 

そうしながら考えて──おれは欲しかったのは平和だけだったんだ──考えた〈あの女はおれのことを祈り出したりすべきじゃなかったんだ〉

『上』p.163

 

馬小屋で寝て起きる男、クリスマス。露悪みたいなキリストの引用。

 

知力が憶えておくよりも前に記憶は信じてしまっている。思い出さなくなっても、知力が疑うようになっても、ずっと信じることをやめない。知っており、憶えており、信じているのは──大きく、長く、ゆがんだ、冷たいこだまを響かせる建物の中にある一本の廊下。

『上』p.173

 

文章はめちゃくちゃかっこいいので『八月の光』お勧めです。

 

自分の場合、見た目は外国人風であれ白人を擬装し社会に溶けこみ得るクリスマスが、幼少時代から「黒ん坊」と呼ばれ*1 アイデンティティ不安を刻印される様を見て、アンガーマネジメントに失敗して読めなくなってしまった。絶対に打ち勝ちたいのに絶対に打ち勝てないもの*2に関する問題で、しんどい立場でしんどい戦い方をするので、とてもつらい。

ジョー・クリスマスを救済するには*3アメリカ南部と、作家フォークナーと、ジョー・クリスマス自身に勝たねばならない。

 

そしてまた、なぜ自分はクリスマスと距離をとることができなかったのかを考えている。

 

 

 

映像作品

間違えてAmazon Primeの無料体験に入ってしまったので、少し見ていた。

 

『Flow』

超越があり、塔があり、洪水があり、ヤバ鯨があり、鳥があり、アメリカ南部がない。良いね。

八月の光』で消耗したときに見ていた。

 

『アポカリプスホテル』

ウェルメイドでくすぐりがうまい。だが『Flow』もそうだが、人でないものをどこまで人に近づけて書くかという問題がある。『Flow』は子供向けの部分あるからな~で流せたが、こっちは流せそうにない

とはいえ第9話・葬式結婚式からの第10話・死体隠蔽回が神回だったので、許している。

 

『パルプ・フィクション』

中盤のボクサーパート、意味ない。

2時間半は長すぎるのでせめて2時間に収めて欲しい(理想は1時間半)。

エゼキエル書を引用しながら人を殺す黒人のギャングは、パターン認識的にうれしすぎる。

 

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

最初の10分でギブアップ。

80年代のガキ、意味ない。

友人にお叱りをうけ、過去に飛んで納屋に突っ込むところ(開始32分)までは見た。その感想。

感想①:白人のガキ、興味ない
感想②:80年代の撮影技術・演技・被写物が謎すぎる。
感想③:普通にコメディのノリやテンポが現代日本と違う。しかし完全に突き放すこともできない、80年代という微妙な時代
感想④:エンタメって巨大な文化的構築物だな。映画史的な解説をしてくれる人が傍にいたら残りも見れそう(無邪気にエンタメとしてみるにはカロリーが高いが、勉強対象として解体しがいはありそう)
感想⑤:音楽は良いね。ロックのシーンとメインテーマしか回収してないけど、この文脈は分かる。とはこの快楽も身体的反応というより知的な把握っぽい。「このロック、やけに音質いいな」とか「あのメインテーマこう使われるんだ~」とか

 

いますぐ輪廻 - YouTube

これ、映像が音楽食ってるな、と思いながら見てた。だから映像作品の枠で紹介する。

「メタモルフォーゼ」のメロディとか終盤の展開とかは面白いし、AメロBメロのサウンドプロダクションも骨太だけど、サビが存外弱い。う~ん……。

まぁ、1980年代以降のポップスは全部MVありきだし、20世紀初頭には劇場から流行った歌曲が山ほどあったし……。

 

あと『ダイダイダイダイダイキライ』が恐ろしいほど良くて恐ろしいという話とか、『モニタリング』は編曲者の功績が大きいという話とか、『メズマライザー』はゲーセン音質だけどうにかしてくれ(音数多すぎて無理 & 意図的なデザイン)という話とか、『マーシャル・マキシマイザー』はいろいろ検討した結果MVだけ悪いという話とか、ボカロ関連の雑談はいくらかできる。そのうち別記事で出すかもしれない。

 

 

 

ゲーム

ゼルダの伝説 風のタクト』で任意コード実行が発見され、Any% TASが15~20分まで短縮される見込み。ただ現状コントローラー2~4の正確な入力が必要なため、人力では不可能。

また『ゼルダの伝説 時のオカリナ』でZombie Jumpという新技がみつかり、炎の神殿をちゃんと攻略するカテゴリ(ダンジョン個別RTA, Nocturne RTA, MST, 100%, All Dungeons N64)は軒並み30秒~2分更新される見込み。

このあたりは状況が落ち着いたら別記事にする予定。

 

 

*1: ワンドロップ・ルール - Wikipedia

*2:響きと怒り』には次のようなセリフがある。「これ[懐中時計]をおまえに贈るのは、時間を忘れずにいるためじゃなくて、たまにはしばし時間を忘れて、時間を征服しようなどという試みに命をすり切らさないようにする、そのためなのだよ。なぜならどんな戦いにも、勝利なんてものはないのだからね、とお父さんは言った」(過去記事参照)。『響きと怒り』における時間論のロマンティック・アイロニー/超越性、あるいは近親相姦のロマンスと比べると、『八月の光』のクリスマスはもっとずっと社会的・現実的である。

むろんクリスマスは思い詰めすぎだし、物語上交差することこそないけれど、「あらあら」とか言いながら超越無双するリーナ・グローブというキャラクターも『八月の光』にはいるのだが。

*3:ネットのカスみたいな二次創作小説を大量に読んでいるので、とりあえず救済ルートを考える癖がついている。