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【RTA解説】Wii「スマブラX」収録 5分体験版「時のオカリナ」any% を可能にしたグリッチ part2/2:SRM以後のWrong Warp

 

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 前回はSRMとWrong Warpの基礎について学んだ。時間(5分)とファイルネーム(「リンク」)が限られた中でのSRMピーキーな性能を持っていること。体験版any%の目標であるCredits Warp(エンディング直行)の基礎にはWrong Warpがあること。Wrong Warpは足し算の原理(ベースエントランスとカットシーンIDの和)で動くこと。

 今回はここら辺の基礎知識を使いながらガッツリ解説するので、ちゃんと理解したい方/急に難易度が上がったと感じた方は適宜前回の記事に戻りながら読むことを推奨。*1

 

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 そして体験版any%を可能にしたこの動画から、次のような問を立てていた。

  • 1回目のSRMでわざわざ迷いの森から迷いの森に移動したのは何故?
  • 2回目のSRMで一旦無を置き角度調整してから再び無を持つとマップがアンロードされる。全体的に何? 何故? 
  • この状態でしばらくするとロンロン牧場のエンディングに辿り着くのは何故?

 

 今やこれらの問に答えることができる。以下ではまず準備運動として現行ルート前の試行錯誤をとりあげよう。そのあと本題である体験版any%の解説を始める。

 

 

 本稿の目的の一つにSRM以降露出の少なくなったWrong Warpへ再度光を当てることがある。いや、「ボス戦後のブルーワープに入ると同時に云々」という分かりやすい形が少なくなっただけで、むしろSRM以後の方が圧倒的にWrong Warp(の原理に基づくワープ)の種類は増えているのだ。

 製品版any%(前回はN64コントローラー3レスチャートについて触れた。今回はiQue Playerという謎ハードに触れる)と体験版any%、どちらもWrong Warpの展開の好例である。

 

 付録としてSRM以後のワープ技がフル活用されているカテゴリ「All Dungons - SRM」をとりあげた。フロルWrong Warpと似ているようで全く別物の「どこでもドア」へ注意を促したい。

 見た目だけでもかなり面白いボスラッシュRTAなので、興味がある方は合わせてご覧いただきたい。

 

  • 試行:Wrong WarpSRM(1)
    • 歴史的経緯
    • LightNode SRMの挫折
  • 解決:Wrong WarpSRM(2)
    • 0 Bombchus Heap Manipulation
    • 1回目のSRM:grotto SRM
    • 2回目のSRM:current cutscene SRM
    • 3つのワープ:Wrong Warp - Void Warp - Credits Warp
    • 解答編(まとめ)
  • 結語:グリッチの科学
  • 付録:All Dungeons - SRM / どこでもドアについて

 

 

*1:筆者の勉強ノートを兼ねているので細かいところまで(アセンブリ言語の手前までは全て説明するつもりで)書いたが、読み物として面白くなるよう適宜修正したい

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【RTA解説】Wii「スマブラX」収録 5分体験版「時のオカリナ」any% を可能にしたグリッチ part1/2:SRMとWrong Warpの基礎

 

  • 序文
  • 復習:SRM
  • 主題:「リンク」はいかにして5分で世界を救ったか?
  • 速成:Wrong Warp
    • 計算例

 

 

序文

 

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 RTA in Japan Winter 2021 お疲れさまでした。

 

 本稿は、このレースの前半で行われた体験版クリアまでのタイムを競うカテゴリ「SSBB Demo - any%」*1について、SRMとWrong Warpを中心に技術的側面をまとめたものである。元々次の記事で扱っていたのだが、説明が長くなってしまったので別稿として独立させた。

wagaizumo.hatenablog.com

 

 このような経緯で出発したのだが、現在では膨らみに膨らんで33000文字ほどになっている。流石に長いので記事も2つに分割した。

 グリッチの技術的(科学的)解説記事として多少なりとも読者の興味を惹くことを願う。

 

 

 RiJW2021のレース後半で行われたガノン討伐までのタイムを競う「SSBB Demo - Defeat Ganon」は、見ての通り「any%」よりも時間がカツカツになる(正直4人中1人でも最初の試行で成功させる人が現れるとは思わなかった)。しかし技術的には、いつものHESSの後にいつもの grotto SRM*2を行い、ガノン城に飛んだらSSでマスターソードを複製しつつガノンを倒すだけである。

 酷い言い草だが、戦略は案外シンプルで使われるバグも大体見慣れているのは確かだ(grotto SRMの仕組み自体はかなり非自明なものの、そのワープ効果はすぐ見てとれる)。観る側からすればグリッチそのものより走者の腕の方に興味が湧く。

 なお現在の世界記録は4:47(2021/11/28, by Cma)。ガノンまわりのムービーが長すぎて短縮する余地がもう無い。

Ocarina of Time Category Extensions - speedrun.com

 

 これに比べて「any%」における2回のSRMは、その見た目の地味さ(?)・荒唐無稽さゆえにスル―してしまいがちだが、一度考え始めると途端に謎を増す曲者だ。筆者はその原理を理解しようとしてだいぶ迷走した(今思うにWrong Warp/Credits Warpの原理をちゃんと履修していなかったのが問題を更にこじらせていた)。

 実際のところ「any%」の戦略はクールで背景技術も興味深い。こういったチャートの面白さはテキスト媒体で解説するのにうってつけである。

 現在の世界記録は3:40(2021/12/11, by Tsundere_rar)と、実は5分も要らず4分弱でクリアできてしまう。一体何がこれを可能にしたのだろうか?

 

 

 ここで「SRMってなんでもできるらしいし、5分クリアも余裕でしょ?」と思われた読者の方がおられるかもしれない。

 そうではなかった。この体験版をクリアするため、数カ月の調査・閃き・非自明な戦略・セットアップ開発が必要だった。

 

 SRMは強力だが、相応の準備も必要である。それは「ラ97ぉ」等の呪術めいたファイルネームであり、ロードゾーン跨ぎや角度調整などRTA走者でさえ時間のかかる精緻なセットアップ、通称「儀式」である。

 諸事情によりファイルネームを使うことができなかった(「リンク」が世界を救うしかなかった)というのが戦略立案の上でまず大きな制約になってくる。

 

 あるいは10分貰えれば永続RAMエディタを作るなり任意コード実行(ACE)紛いのことなり「なんでも」出来ただろう*3。しかし5分という制限の中では、SRMの「重さ」ゆえに「なんでもできる」ところまで持っていくのは到底不可能だ。

 

 限られた名前と時間とアイテムの中、どこに狙いを定めてSRMの強力さを活かすか。どう戦略を立てどう実装するか。ここが面白いポイントになってくる。

 

 

 

*1:speedrun.comにおけるカテゴリ名。SSBBは「スマブラX」の英題「Super Smash Bros. Brawl」から

*2:5分体験版用にセットアップを最適化したことは見逃せない時間的工夫ではある

*3:嘘をついている。どちらもファイルネームを使わないと10分には収まらないだろう。使えたとしてWii VCではACEそのものはできない(ACEっぽいことはできる)。RAMエディタに関しては次の動画を参照。これもWii VCでは出来ない。

2021/3/24「Building a RAM Editor in Ocarina of Time」 by SeedBorn

https://www.youtube.com/watch?v=J95D-gPBDuc&ab_channel=SeedBorn 

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2021年 グリッチこもごも(ゲームのバグ/RTA/TASに関するニュース)

 

 

 本稿は時オカ・ムジュラSRM/ACEの記事を書くために取材する(有識者Twitterを2019年10月まで遡って数千件全部見る)過程で成立した。

 今年はここら辺が面白かった、という私信でもある。10月以降の記述が厚いのは筆者の記憶の限界を示す。

 

 

  • [別記事で扱ったもの]
  • 1 – 3 月
  • 4 – 6 月 
  • 7 – 9 月
  • 10 - 12月
  • 余談:任意コード実行(ACE)の広がり

 

 

 

[別記事で扱ったもの]

 

ゲーム関連全般

https://wagaizumo.hatenablog.com/archive/category/%CE%B4

 

2021年1月~:ゼルダの伝説 時のオカリナムジュラの仮面 におけるSRM/ACEの動向

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/12/25/075904

 

2021年2月:マリオストーリーN64)・ペーパーマリオRPGGC)における任意コード実行/任意スクリプト実行

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/12/02/164958

 

2021年9月~:ポケットモンスターダイヤモンド・パール(DS)における任意コード実行

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/11/22/214853

 

2021年11月:ムジュラの仮面における1stサイクルスキップ

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/11/21/130416

 

2021年11月~:ダークソウル(リマスター・無印)のAll Bosses更新合戦

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/12/20/033811

 

 

 

1 – 3 月

 

2021/1/10 AGDQ2021:Pokemon Blue「Catch 'em All」

https://www.twitch.tv/videos/868404525

https://archive.japanese-restream.org/agdq2021

 れんだ氏の解説が秀逸だったのでメモしておく。任意コード実行(ACE)を使いつつポケモンを全て「正規の方法で」入手するカテゴリ。

 

 

2021/2/20 マリオストーリーN64)でACEによるクレジットワープ

2021/2/23 ペーパーマリオRPGGC)でASEによるクレジットワープ

 詳細は次の記事で扱った。

https://wagaizumo.hatenablog.com/entry/2021/12/02/164958

 

 

2021/02/24 ピクミン2 お宝全回収 5日クリア

https://www.nicovideo.jp/watch/sm38325650

 初日の崖越えグリッチがブレイクスルーとなった。以前の6日クリアよりも2日目が更に厳しくなっている。最初の2日間は一見の価値あり。

 動画はついでに無犠牲も達成している。

 また同様の手法により、ゲーム内1日で借金返済が可能らしい。最初の洞窟に不正侵入してひたすら虫を回収する。現実では29時間かかったようだ。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm38759701

 

 低日数クリアはほとんど限界に達した。ねむりの谷のお宝を初日で全回収できるようになる(仕様・常識を10個ぐらいぶっ壊す?)より、メモリ破壊系のグリッチを見つける方がまだ可能性がある。

 

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【時のオカリナ・ムジュラの仮面】SRM/ACE以降の ゼルダ RTA 史  part 2/2:2020年3月 ~ 2021年

 

 

 

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 混乱期は終わった。SRMが順当に応用範囲を拡げつつ発展していく様を見ていこう。

 次のプレイリストはSRMの前史から応用まで一通り重要な動画が揃っており、本稿の執筆においても参考にした。

Stale Reference Manipulation (SRM) Research - YouTube

 

 またpart 2ではany%以外の話が増えてくる。他カテゴリだったり、3DSのリメイク作品だったり。

 

 

 追記:2020年から2021年までの2年間にわたる(時オカ・ムジュラに限らない)3Dゼルダany%短観として、次も面白い。

pastebin.com

 

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【時のオカリナ・ムジュラの仮面】SRM/ACE 以降の ゼルダ RTA 史 part 1/2:(2019年10月)~2020年2月

 

はじめに

 

 N64の3Dゼルダといえば「時のオカリナ」および「ムジュラの仮面」。今更語るまでもない名作で、スピードランも古くから盛んに行われている。

 これら2作を2019年11月頃から徹底的にぶっ壊したのがSRM(Stale Reference Manipulation)およびACE(Arbitrary Code Execution:任意コード実行)だ。

 近々開催されるRTA in Japan Winter 2021で大トリ前に「スマブラX」収録5分体験版時オカをクリアする(?)レースがあるが、これもモロにSRMの恩恵を受けている。5分クリアなんてSRM/ACE以前には考えられなかった。

 

 本稿はグリッチハンターでもスピードランナーでもない筆者が、時のオカリナ any%を中心にSRM/ACE開拓期の大混乱から現在に至るまでの通史を編纂(偽造)したものである。

 所詮門外漢が書いた文章なので、間違い・不足等あればご教授願いたい。特に2019年10月-12月あたりの雰囲気は、当時コミュニティに居た方しか判らない気がする。

 

 なお、SRMの実践については別の記事で扱っている。興味があればこちらも是非。

時オカ日記②(コキリの森 LightNode SRM編) - 古い土地

時オカ日記③(迷いの森 SRM編) - 古い土地

 

 

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【ダクソ】ダークソウル全ボス撃破RTA の 2020-21 年における進展、およびルート比較

 

 この記事でダクソ「無印版」と呼んでいるのは、PS3版のWindows/Steamへの移植として海外で発売された『Prepare To Die Edition(PTDE)』のこと。日本では『with ARTORIAS OF THE ABYSS EDITION』として発売されている。

 過去にはSteamでリマスター版への無料アップデートサービスがあったので、無印PC版の現所持者は少なそうだ*1。中古で手に入れようとするともれなくプレ値である。

 しかし、入手の難を乗り越えて、無印版のスピードランは未だ盛んである。speedrun.comのactive playersを比べると、リマスター版が23人、無印版が12人らしい(2021/12/20時点)。

 特に「All Bosses」と呼ばれる中時間のカテゴリでは、リマスター版と無印版の仕様/グリッチのバージョン差がルートへ著しく反映されている。これらを比較するのは中々に面白い試みだった。以下で紹介しよう。

 プラットフォームは特筆しない限りPCとする。

 

 

 

  • ダクソリマスターとダクソ無印版のAll Bossesの話
    • リマスター版:魔術ルート
    • 無印版
    • 無印版:Swordlemage
    • 無印版:ESM Mailless
    • 無印版:Dragon Tooth +5
    • 無印版:Optimelle
  • ダクソ any%の話
  • ダクソリマスター any% glitchlessの話
  • ダクソ最少ボス数クリアの話

 

 

ダクソリマスターとダクソ無印版のAll Bossesの話

 

 この節は1年前に内輪向けに書いたテキストを加筆して成立した。当時は無印版のルートとして「Dragon Tooth +5」および「Optimelle」は全く注目されていなかった。

 

 2020年、リマスター版と無印版両方のAll Bossesが盛り上がっていた。一番影響が大きかったのは2020年1月頃から次々に見つかったリマスター版限定のソウル不正使用バグだろう。それまで1時間10分だったリマスター版All Bossesが無印版の1時間5分に肉薄する。

 2020/10/1、2つの世界記録は一瞬1:03:50台に並ぶ。そのあとすぐリマスター版が追い抜いて行った。無印版は1:03:55(2020/10/1 by catalystz)で更新が止まり、リマスター版は1:01:46(2021/7/19 by catalystz)まで伸びる。この時点で2分差。

 

 2021年11月頃からまた無印版All Bossesが盛り上がっているらしい。カラミット1回目撃破の新セットアップ(2021年11月頃?)とHomeward Wrong Warp(2020年8月頃?)を織り込んだ新ルートが開発されたのだ。リマスター版の環境において前者は組み込めるが後者は今の所活かせそうにない。

 これにより両版の世界記録は再接近しつつある。

 

 おすすめしたいプレイ動画はリマスター版の魔術ルートと無印版の「Dragon Tooth +5」だ。一本に絞るなら「Dragon Tooth +5」の方をお勧めする。

 リマスター版の世界記録はソリッドランを見る快楽があるが、一方でソウル増殖含めて全部見慣れた風景という感じだ(逆にダクソRTAを初見だったりここ数年見ていない方はまずリマスター版All Bossesをお勧めする。最初から「Dragon Tooth +5」みたら頭が爆発する)。グリッチshowcaseとして「Dragon Tooth +5」は面白い。ルートが新鮮で安易に5秒送りすると訳分からないことになっている。

 

 speedrun.comのリーダーボードを比べてみよう。(2021/12/18時点)

 

リマスター版

https://www.speedrun.com/darksoulsremastered#All_Bosses

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無印版

https://www.speedrun.com/darksouls#All_Bosses

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*1:シリーズ累計3000万本売れたゲームなので実数はよくわからない。2012年頃ってDVD-ROMとダウンロード販売どちらが優勢だったのだろう?

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入沢康夫論2-3:『わが出雲』と世界への帰還の許容(下)

 

 とりあえず提出するが、後で手直しするかもしれない。今は草稿の全容を見通せない。盲いた唖はその表面を撫でるだけ。

 

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入沢康夫『漂ふ舟 わが地獄くだり』(1994年、思潮社

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 浮きつつ遠く永劫の、魂まぎ人が帰ってくる。

 帰ることができる。

 帰ることを要請されて。

 

季節に関する一連の死の理論は 世界への帰還の許容であり

――入沢康夫「季節についての詩論」(1965年、錬金社)

 

 

  • どこへ どこへ どこへ:往路
  • 言語外からの強襲:復路
  • 唄:終幕

 

 

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