古い土地

暗い穴

About これは何?(エスキス)

 

 あの館では、ひとは《利用》とか手段とかの観念を嫌悪し、唾棄し、そうすることでついにはそれらを忘れはてる。それらの観念自体が非倫理的だというので。

――〔「マルピギー氏の館」のための素描 20 倫理〕 入沢康夫『声なき木鼠の唄』(1971年、青土社

 

 

 1 言及

 

 言葉は呪いの中にある。口頭教育の時代に話し言葉の模造品・代替として扱われていた書き言葉は、黙読の発明(聖アウグスティヌス『告白』*1)と共に、いつしか地表を覆うに至った。「なんでも言及してやろう」という意志の顕れ。

                                          

 本当にそうだろうか?

 

 

 

 2 舌打ち

 

 「Civ4」*2のプレイガイドをこの次から掲載するが、本稿ではそれを含む事象を極度に一般化して説明する。我々の知る全てを整理し、明晰にし、地図化することによってますます、我々の前から巧妙にも遠ざかって行くある一群。巨きな星にも小動物にも似たそれらに対し舌打ちするのがこの文章の目的の一つである。

 

 

 3 公準

 

 (仮の準則)本ブログを文芸ブログとして扱うこと。

 

 

 4 切除不可能性

 

 本ブログの記事は全て、ある特定の題材に対する論考の形をとっている(本稿はそのことに対する論考)。しかし我々の目的は、その意味内容を伝聞することではなく(副作用で意味が伝聞する可能性を排除するわけではない――むしろ不可能性と同様に、その可能性はつねに切除不可能なのだが)世界を説明する文体そのもの、言葉のテクスチャーそのもの、論理関係の中で生まれる言葉の作用そのものにある。ブログは表現ではない。

 

 

 5 とるに足りないもの

 

 でなければ今、ピチカート・ファイヴのごときものについて文字数と時間を割いて分析したりしない。テクスチャーの機能を見るには流通不可能なほどよく、意味は伝わらないほどよい。

 

 

 6 『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』*3

 

 ところで生者を死者と同等に扱うこと。世界を遊戯とみなすこと。世界にはルールが存在すること。それら全てを言語化し塔のごとく積み上げ、あまつさえ改変可能だと信ずること。世界をつねに異世界=迷宮として眼差すこと。世界を叙事詩化できること。このような信念、このような原則が、我々を遠く果てまで導いたとして――しかし、「奴隷」とは? 言語はこの戯れに従属するのか?

 

 

 7 非・SF

 

 結局のところ我々の目論見とは、現実のこちら側のみで構成した、現実を異世界として眼差すための『異常論文 (ハヤカワ文庫 JA ヒ)』*4だと言ったならばそれは、嘘になる。

 

 

 8 SCP-5034『肉の天使たち』*5

 

 テキストとしてのSCP、その根幹は調査書に仮託された文体の統一にある。長ったらしい物語調のSCPは狂気の沙汰で、短く遊びを含んだSCPが望ましい。それが意味の伝達を拒むもの(反ミーム)ならなおさら。

 

 

 9 生まれてくる赤子の数を減らす

 

 反ミーム的なもの、世界の情報量を減らしたいという欲動。その願望の充足/不足にかかわらず50億年の時が全てを無効化する。

 

 

 10 啞

 

 ひるがえってみれば、世界を説明し舗装することにより水平な/垂直な言葉から遁走するこの試み。それさえも実は言語の唾棄すべき繁殖行為の一側面、構造の自浄作用にすぎないのであって、我々はなお一層ミームの担い手、意識的な苗床、奴隷である他ない。

 

 

 だから、そのやうな海に対して、私は、私たちは、意志的な態度は敢へて取り得なかつた。常に受容的であつた。これを以て、非主体的といふのは当らないだろう。私たちはむしろ意識的に意志を睡らせ、黒髪さながらに波間を漂ひ去る幾万の藻草の行方に眼を放ち、そのやうにしながら、身体のどこか底深いところで、私たちの真の目的地が、折り折りに、仮そめの島や岬の形に造形されては解体するのを、他人ごとのやうに(しかし、これ以外の方法は絶対になかつた)感じ取るのだつた。

――〔異海洋からの帰還 2〕 入沢康夫『「月」そのほかの詩』(1977年、思潮社

 

 

 マルピギー氏の館でのあらゆる形式による体験は、その体験者に何らの新しい世界を開示しないという意味で、その重苦しい鮮度を保ちつづける。この館の呪いの本質はそれだ。

――〔「マルピギー氏の館」のための素描 27 呪い(その一)〕 『声なき木鼠の唄』

 

 

 

 11 審理

 

 何にせよ言及することは悪質であり、我々は手を縛り口をつぐまなくてはならないという信仰。倫理が存在するとすれば、今すぐに全てを捨て去るべきだという信仰。我々の存在は審美的にも許されないという信仰。これこそが言語的分節であって、我々は「自我の核心の青光りする蚕」のことを、「無数の銀河を呑噬しつくして尚も成長をやめない大なめくじ」のことを、そうしてこの二つを結ぶ「一本のパイプ」=マルピギー氏の館*6のことを、今にも思い出そうとしている。

 

 

 28 呪い(その二)

 してみれば、このような館は亡び去るべきだ。マルピギー氏の館で、ひとは逆説に驚かない。むしろ逆説と逆説の落差に身をまかせて、ちょうど超現実派の詩の過度の読書がもたらすのと同質の、一種の荒廃感にひたりながら、逆説的でない存在の仕方について、きわめてありきたりのあこがれを抱いたりするのだ。

 

 29 反響

 そして今日も、あこがれを石でたたく、その耳も聾せんばかりの音が、古ぼけた花飾りのある柱廊に、四六時中こだましている。

――〔「マルピギー氏の館」のための素描〕 『声なき木鼠の唄』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:この節はボルヘス『続審問』「書物崇拝について」(中村健二訳、2009年、岩波書店)に準拠している

*2:"Civilization IV (also known as Sid Meier's Civilization IV) is a 4x turn-based strategy computer game and the fourth installment of the Civilization series, and designed by Soren Johnson under the direction of Sid Meier and his video game development studio Firaxis Games. It was released in North America, Europe, and Australia, between October 25 and November 4, 2005, and followed by Civilization V." https://en.wikipedia.org/wiki/Civilization_IV

*3:https://ncode.syosetu.com/n4259s/ 「小説家になろう」史上最も重要な作品。多くの作品(というよりはなろう特有の1.5次創作のシーンから)の影響を受けて創られ、これが直接・間接に影響を与えていない作品は存在しない。最近アニメ化した『無職転生』は直接に大きく影響を受けている例。ネット小説の通史を編むならば《『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』史観》によって立つのが自然。

*4:https://www.hayakawabooks.com/n/n137cb850cf46

*5:http://scp-jp.wikidot.com/scp-5034

*6:「マルピギー氏の館」は「マルピーギ小体」の、「異海洋」は「胃潰瘍」のもじりであり、どちらの詩も入沢康夫の病歴を契機として編み出されている。ここに入沢康夫的な言語と身体の微妙な関係性、その破綻の前兆を読むことも不可能ではない。