古い土地

暗い穴

【時のオカリナ・ムジュラの仮面】SRM/ACE 以降の ゼルダ RTA 史 part 1/2:(2019年10月)~2020年2月

 

はじめに

 

 N64の3Dゼルダといえば「時のオカリナ」および「ムジュラの仮面」。今更語るまでもない名作で、スピードランも古くから盛んに行われている。

 これら2作を2019年11月頃から徹底的にぶっ壊したのがSRM(Stale Reference Manipulation)およびACE(Arbitrary Code Execution:任意コード実行)だ。

 近々開催されるRTA in Japan Winter 2021で大トリ前に「スマブラX」収録5分体験版時オカをクリアする(?)レースがあるが、これもモロにSRMの恩恵を受けている。5分クリアなんてSRM/ACE以前には考えられなかった。

 

 本稿はグリッチハンターでもスピードランナーでもない筆者が、時のオカリナ any%を中心にSRM/ACE開拓期の大混乱から現在に至るまでの通史を編纂(偽造)したものである。

 所詮門外漢が書いた文章なので、間違い・不足等あればご教授願いたい。特に2019年10月-12月あたりの雰囲気は、当時コミュニティに居た方しか判らない気がする。

 

 なお、SRMの実践については別の記事で扱っている。興味があればこちらも是非。

時オカ日記②(コキリの森 LightNode SRM編) - 古い土地

時オカ日記③(迷いの森 SRM編) - 古い土地

 

 

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【ダクソ】ダークソウル全ボス撃破RTA の 2020-21 年における進展、およびルート比較

 

 この記事でダクソ「無印版」と呼んでいるのは、PS3版のWindows/Steamへの移植として海外で発売された『Prepare To Die Edition(PTDE)』のこと。日本では『with ARTORIAS OF THE ABYSS EDITION』として発売されている。

 過去にはSteamでリマスター版への無料アップデートサービスがあったので、無印PC版の現所持者は少なそうだ*1。中古で手に入れようとするともれなくプレ値である。

 しかし、入手の難を乗り越えて、無印版のスピードランは未だ盛んである。speedrun.comのactive playersを比べると、リマスター版が23人、無印版が12人らしい(2021/12/20時点)。

 特に「All Bosses」と呼ばれる中時間のカテゴリでは、リマスター版と無印版の仕様/グリッチのバージョン差がルートへ著しく反映されている。これらを比較するのは中々に面白い試みだった。以下で紹介しよう。

 プラットフォームは特筆しない限りPCとする。

 

 

 

  • ダクソリマスターとダクソ無印版のAll Bossesの話
    • リマスター版:魔術ルート
    • 無印版
    • 無印版:Swordlemage
    • 無印版:ESM Mailless
    • 無印版:Dragon Tooth +5
    • 無印版:Optimelle
  • ダクソ any%の話
  • ダクソリマスター any% glitchlessの話
  • ダクソ最少ボス数クリアの話

 

 

ダクソリマスターとダクソ無印版のAll Bossesの話

 

 この節は1年前に内輪向けに書いたテキストを加筆して成立した。当時は無印版のルートとして「Dragon Tooth +5」および「Optimelle」は全く注目されていなかった。

 

 2020年、リマスター版と無印版両方のAll Bossesが盛り上がっていた。一番影響が大きかったのは2020年1月頃から次々に見つかったリマスター版限定のソウル不正使用バグだろう。それまで1時間10分だったリマスター版All Bossesが無印版の1時間5分に肉薄する。

 2020/10/1、2つの世界記録は一瞬1:03:50台に並ぶ。そのあとすぐリマスター版が追い抜いて行った。無印版は1:03:55(2020/10/1 by catalystz)で更新が止まり、リマスター版は1:01:46(2021/7/19 by catalystz)まで伸びる。この時点で2分差。

 

 2021年11月頃からまた無印版All Bossesが盛り上がっているらしい。カラミット1回目撃破の新セットアップ(2021年11月頃?)とHomeward Wrong Warp(2020年8月頃?)を織り込んだ新ルートが開発されたのだ。リマスター版の環境において前者は組み込めるが後者は今の所活かせそうにない。

 これにより両版の世界記録は再接近しつつある。

 

 おすすめしたいプレイ動画はリマスター版の魔術ルートと無印版の「Dragon Tooth +5」だ。一本に絞るなら「Dragon Tooth +5」の方をお勧めする。

 リマスター版の世界記録はソリッドランを見る快楽があるが、一方でソウル増殖含めて全部見慣れた風景という感じだ(逆にダクソRTAを初見だったりここ数年見ていない方はまずリマスター版All Bossesをお勧めする。最初から「Dragon Tooth +5」みたら頭が爆発する)。グリッチshowcaseとして「Dragon Tooth +5」は面白い。ルートが新鮮で安易に5秒送りすると訳分からないことになっている。

 

 speedrun.comのリーダーボードを比べてみよう。(2021/12/18時点)

 

リマスター版

https://www.speedrun.com/darksoulsremastered#All_Bosses

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無印版

https://www.speedrun.com/darksouls#All_Bosses

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*1:シリーズ累計3000万本売れたゲームなので実数はよくわからない。2012年頃ってDVD-ROMとダウンロード販売どちらが優勢だったのだろう?

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入沢康夫論2-3:『わが出雲』と世界への帰還の許容(下)

 

 とりあえず提出するが、後で手直しするかもしれない。今は草稿の全容を見通せない。盲いた唖はその表面を撫でるだけ。

 

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wagaizumo.hatenablog.com

 

 

入沢康夫『漂ふ舟 わが地獄くだり』(1994年、思潮社

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 浮きつつ遠く永劫の、魂まぎ人が帰ってくる。

 帰ることができる。

 帰ることを要請されて。

 

季節に関する一連の死の理論は 世界への帰還の許容であり

――入沢康夫「季節についての詩論」(1965年、錬金社)

 

 

  • どこへ どこへ どこへ:往路
  • 言語外からの強襲:復路
  • 唄:終幕

 

 

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入沢康夫論2-2:『わが出雲』と世界への帰還の許容(中)

 

<前|

wagaizumo.hatenablog.com

 

入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』(1968年、思潮社

 

 幼き日の友。己と瓜二つの友。その「あくがれ出た魂」を鎮めるため出雲の国をさまよった「ぼく」。紆余曲折の末に「小さな光」を「血も/凍るおもいで 両のて/のひらに そつと/すくい上げた」

 そうして逃げるように東京に帰り「今これを書いている」。(「わが出雲(エスキス)」『倖せそれとも不倖せ続』(1973年、書肆山田))

 

 

 本当にそうだろうか?

 

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  • 友の魂を求めて:往路
  • どん詰まりから/帰還の騙り:復路
  • Seagull Calls

 

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入沢康夫論2-1:『わが出雲』と世界への帰還の許容(上)

 

入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』(1968年、思潮社

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  • 導入:異説・出雲神話
  • オペレーション
  • 自注の例
  • 余録1:いくつかの植字的方法
  • 余録2:『わが出雲・わが鎮魂』「あとがき」全文引用
  • [reference]

 

 

導入:異説・出雲神話

 

 この節は以前内々に作ったテキストの修整版として成立した。

 

「やつめさす 出雲建が 佩ける大刀 黒葛(つづら)多纏(さはま)き さ身無しにあはれ」

出雲建 - Wikipedia

 

 「出雲」の枕詞としては「八雲立つ」がよく知られている。「やつめさす」は「八つ芽刺す出藻」から来たとされ、多くの芽が自然に生える豊かな出雲、ぐらいの意味。

 古事記(以下「記」)においてはこの歌の背景として

「それほど豊かな出雲の支配者(イヅモタケル)の大刀なのに、(ヤマトタケルに騙されて)蔓(つる)ばかり幾重にも巻く飾り鞘(さや)で刀身がなく、アアオカシイ、ザマヲミロ」

というのが採用されている。

 ままあることだが、日本書紀(以下「紀」)では同じ歌に違う背景が採用されており、出雲振根による弟の飯入根の騙し討ちとして描かれる。そこでの「あはれ」は同時代人の歌とするから「カワイソウダ、キノドクダ」ぐらいの意味になるだろう。

 

 他方、これらいずれのエピソードも原形からかけ離れた、”編集された”挿話だという説もある。

 

「しかしこの歌の原形は、どう考えてもこんなものが無しい格調をもっているものではない。『八雲立つ出雲健が佩ける太刀……』と歌いだすこの格調の美は雄々しい出雲の勇士を讃える言葉でなくて何であろう。『葛多巻き』という表現も太く強大な太刀を示したものであり、末尾の『あはれ』もあっぱれ見事だと讃えた言葉である。出雲の勇士を賛美した歌が、替え歌として、彼ら有志の没落をうたう哀歌となったのであろう」

――鳥越健三郎『出雲神話の成立』(1966年、創元社

 

 「記」も「紀」も政治的意図を(意識的/無意識的に)多分に含んで編纂されたのは周知の事実だが、出雲神話に関しては面白い説があった。過去に。

 

 

 因幡の兎、八岐大蛇討伐、先の出雲健討伐など、出雲が舞台となるエピソードは神々を物語る古事記上巻の約三分の一をも占めている。それにもかかわらず、1980年代まで(後述)それほど多くの神話を残したであろう大国家が存在した証拠・遺跡は見つかっていなかった。規模が大きいほど、発見は容易なはずなのに。

 このことや伝承の分析をもとに書かれたのが鳥越健三郎『出雲神話の成立』である。

 

 出雲国風土記*1では出雲国の始まりとして「国引き」がうたわれる。

 

「古代の出雲国(現在の島根半島)は土地が小さかったため、神様が朝鮮半島隠岐北陸地方などから余った土地を4個所引っ張ってきてつなぎ合わせたという話です。引き寄せた土地をつなぎ止める綱が、「薗(その)の長浜」(稲佐の浜から南に続く海岸)と弓ヶ浜、綱をつなぎ止める杭が、三瓶山と大山だとされています。」

島根県:島根県 : 特集2 神話のふるさと島根(トップ / 県政・統計 / 政策・財政 / 広聴・広報 / フォトしまね / 179号)

 

 鳥越『出雲神話の成立』の大筋は以下の通り:

 

よせあつめ……/つくられた……/借りものの……  前出の国引き神話にしたがえば、出雲の国土は多くの「他処」から引いて来て「作り縫」われ、大きくされたものだが、いわゆる「出雲神話」そのものについても、これは本来出雲地方で伝承された土地神に関する神話・伝説というよりも「記」「紀」編纂の頃。日の神の子孫の収める陽の国に対する、陰の国・夜の国の必要上、それを出雲に措定し、各地の伝承を寄せ集めて、大和朝廷で作られたものであり、古代出雲地方を中心として大和に対抗するに足る大国家があったわけではない、との説がある

――「I」 入沢康夫『わが鎮魂』

 

 この説に基づけば、編集され寄せ集められた出雲神話体系の始まりに、(おそらくは)元々伝承されていた寄せ集めの神話=国引きが置かれていることになる。美しい対応だ。

 また、この説と昨今の島根県出雲大社出雲神話をよくPRしていることを並べると、借りもの・まがいものが幾星霜を経て真実に「された」感じがして、妙な興奮を喚起する。

 

 

 さて、この「にせの出雲神話」説の妥当性についてリマークしておこう。1983年に始まる調査で荒神谷遺跡の全容が明らかとなり、銅剣の本数などから古代出雲に大国家が存在したという説が有力になってきた。(筆者は詳しくないのでどの学派が有力なのかは専門家に聞いてほしい)

荒神谷遺跡 - Wikipedia

 

 最近だと古代出雲人のDNAを解析する試みがあった。縄文人に近いとかなんとか。クラウドファンディングで資金を調達。

新着情報 古代出雲人の人骨から、縄文人・弥生人のルーツに迫る挑戦!(東京いずもふるさと会(会長岡垣克則)) - クラウドファンディング READYFOR

 

 とはいえ、「陰の国」が無理くり出雲に措定されたというのは今でも十分通りそうな話だと思う。政治的「屈服」のあかしとして。

 「国」の痕跡は資料として残るが、「神話」の痕跡は史料としてしか残りようがないのだから、謎は謎のままだろう。

 

 

 「にせの出雲神話」説の学問的妥当性は、しかし本稿の範疇ではない。

 重要なのは1966年から1983年までの間「出雲神話は「偽物の」神話である」可能性を提出し続けたこと。

 それにより入沢康夫が『わが出雲・わが鎮魂』(1968年)を書くきっかけとなったこと。それだけで十分な価値があるように思う。これは審美主義が過ぎるだろうか。

 

 

 以上の準備によって、ようやく『わが出雲』の冒頭部分を紹介できる。

 

やつめさす

出雲

よせあつめ 縫い合わされた国

出雲

つくられた神がたり

出雲

借りものの まがいものの

出雲よ

さみなしにあわれ

――「I」 『わが出雲』

 

 この詩句には多重の含意がある。

 

出雲神話において出雲国が「国引き」という寄せ集めで成立していること

②それと同様に、『わが出雲』は多様なテキスト・語りのコラージュで成立していること

出雲神話:今伝わる出雲神話は時の権力によって大幅に編集されたものであり、多数の「借りもの」を除くと出雲本来の伝承は極めて少ない(無い?)という可能性

メタポエム:同様に、『わが出雲』は東西古典/神話/近代詩/民俗学 etc の引用/引喩/編集によって成立していること。それが時にきわめて「うそくさい」形式をとること。

 

 また、「さみなしにあわれ」の意味も、まず「記」が「ザマアミロ」、「紀」が「カワイソウダ」で全く異なる。背景として《卑怯な騙し討ち》は共通しているが、鳥越の異説は本来《騙し討ち》など関係なく、「あわれ」は「アッパレダ」の意とした。

 

「あはれ」の意味のとり方で、この歌全体の立場が変転するように、「あわれ」の意味によって、『わが出雲』の立場もまた。

――「さみなしにあわれ」 『わが鎮魂』

 

 

*1:ちなみに現存する五つの風土記の中で唯一完全な形で残っている

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T.S.エリオット『荒地』の歴史的受容について

 

 以下の文章は入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』についてのテキストからエリオット『荒地』に関する部分を分離させたものである。独立でも読めるが、重心がそこに寄っていることを注意しておく。

 

 

 

T.S.エリオット(著)岩崎宗治(訳)『荒地』(2010年、岩波書店

 

    もし水さえあれば

 

岩はなく

もし岩があり

そして水もあれば

そして水が

泉が

岩のあいだの水たまりが

せめて水の音でもあれば

蝉の声ではなく

枯れ草の歌う声ではなく

岩に落ちる水の音が

鶫が松の樹にとまって歌うところに

ポトッ ポト ポトッ ポト ポト ポト ポト

だが水はない

 

――「V 雷の言ったこと」 岩崎訳『荒地』

 

  • T.S.エリオットについて
  • 日本における『荒地』の受容
  • 西脇順三郎について
  • [reference]

 

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異世界論――「異世界転生」論と「小説家になろう」論のための助走

 

 以下は「なろう」論をきっかけに書いた8000文字の放棄稿である。論が言語や論理の解体(destruction)の方へと進み、コントロール不能に陥った。論としては成立していないが何らかのオブジェとしては成立していると判断したので、ここに残す。

 

 

手が届かない 俺の新しい世界

なんてどこにも見えやしない

――高橋徹也「新しい世界」 

 

 

 本稿の序論として書いたものを、内容の独立性ゆえ次の記事にまとめた。

wagaizumo.hatenablog.com

 

 ともかく、「なろう」の発明はヒップホップの発明と同様に、ある時点までエキサイティングだった。これ以上新しいものなどないのだから、既成概念を利用してどこまでも感覚をハックしていくこと(なろう風に言えば「チート」)。

 「なろう」という〈場〉における「異世界」概念の増殖、その現象こそが異世界じみて見えた時期があった。

 

 以下の論考に直接関係するのはこの部分だけである。ただし、「なろう」論を期待している読者は上の記事を読んだ方がよい。一応「なろう」論のつもりで書いたのだが、それを都合のよい口実にした何かと思う方が自然かもしれない。

 

 

  • 異世界論:「虚構」から「脱虚構」へ
    • 「虚構」論
    • 「脱虚構」論
  • 結:異世界を幻視するために
  • あとがき

 

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